△ ナカロマ 75
リヴァイの、いつもの掠れたような抑揚のない声がした。
その言葉にふわりと気持ちが舞い上がる。
無理やり閉めようとしていた蓋がゆるく開いて、気持ちが溢れる。
「……っ」
あ、どうしよう。
抱きつきたい。
思わずその衝動に駆られたけどもののさっきまで諦めようとしていた複雑さから、両手で彼の胸元のシャツを軽く握ったまま躊躇した。
…でも、そういえばリヴァイとの関係ってまだはっきりしてないままなんじゃ…?
もやもやと考えたまま硬直した私を見て、リヴァイが不意に両手を広げた。
え?
と思って顔を上げると少し感心したような表情が見えた。
「いつもは考えなしなんだろうが…途中でやめるのは珍しいな。
お前が止めるならいいが、いいのか?」
抱きつこうとしてること、もしかしなくてもものすごくばれてる…!?
かあ、と一気に頬が上気するのを感じる。
…でも。
両手を広げてくれるその姿が切ないくらい嬉しくて、久しぶりな彼の柔らかなその雰囲気に誘われて…つい、私は床を軽く蹴っていた。
自分より少しだけ背の高い彼の首元に抱きつく。
背中に回された腕が軽く、でもしっかりと受け止めてくれた。
リヴァイの香りに包まれて、ものすごく安心する。
暖かくて優しくて。
ほっと、息がつける。
このまま、ずっとこうしていたい…。
「……エマ、約束してくれるか」
不意に、彼の声がすぐ近くで聞こえた。
「…?」
「俺にもう心配を掛けたくないな?」
「う、うん。」
それはもう。
今回のことで身をもって分かった。
私のことでリヴァイが傷つくのはもう見たくない。
殺されそうになるのも、さっきはいいと思えたけど本気で死を覚悟するくらいには怖かったので、出来ればもう経験したくない。
心配ですめばいいけど…
リヴァイが怒ったらどんなに怖いかなんて、考えたくもない。
「俺のいないところで危険なことはしないと言え。
壁外に行くなんてもってのほかだ」
……そ、それって…?
まさかそんなことを言われるなんて思わなくて、自分からリヴァイに回した手をほどいた。
床に足をつけると、まだ近い距離から彼の目が私を見下ろすのが分かった。
「……エマ?」
この瞳。
するりと両手を頬に添えられて目を逸らすことも出来ない。
声色は柔らかいけど、その目は有無を言わさない圧力をかけてる。
こんなに露骨に、リヴァイに心配しているから離れるなと言われるとは思わなかった。
なんだか、どぎまぎしてしまう。
子ども扱いされているんだろうけど、恋人同士の甘い言葉よりも今の私にはこっちの方が心臓に悪い。
だって、それって守りたいと思ってくれてるってこと?
…そう聞こえるよ。
「リ、リヴァイのいないところで危ないことはしない。
外にも……行かない。約束する。」
そう言った瞬間に額同士がこつりと合わせられて、リヴァイの髪が直に額をくすぐった。
「……!」
彼の行動に、一々心臓が暴れて頭が真っ白になる。
さっきのもそうだけど、こういうことを急にされると心臓に悪い。
「…そうか」
自分でそう言わせたくせに満足そうな柔らかい声を出したリヴァイ。
なんだか、終始彼のペースに流されてるみたいで気に入らない。
…はずなのに。
なんだかくすぐったくてふわふわした気持ちになってしまう私って、完全にリヴァイにやられてる…。
無性に気恥ずかしくなって、距離が近いリヴァイの体からすり抜けるように顔を逸らす。
「…もう、行かなきゃでしょ、皆きっとリヴァイのこと待ってるよ」
