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 ナカロマ 74

……!



腕を掴む彼の手には迷いがない。

熱い手の平が優しく、でも力強く私を引き留める。



「…悪いが、あとにしてくれ」



リヴァイは私の腕を掴んだまま、いつものような涼しい顔でペトラさんに顔を向ける。

それを聞いて私もペトラさんも同時にリヴァイの顔を凝視した。


な、なんで私…?
ペトラさんじゃないの?


そう言えればよかったのに、予想外の出来事に頭が真っ白になってなにも出てこない。
が、ペトラさんの反応の方が早かった。


「あ、了解しました!失礼しますね!」


いつものような明るい声。

ぱたん、と丁寧に扉が閉められてまた室内は静寂に包まれる。


「リ、リヴァイ、どうするの…。
優先させる方間違ってるでしょ…」


ペトラさん勘違いしちゃうかもしれない…!


「わたし、ペトラさん追いかけて呼んでくるから…」


離して、という代わりに腕を引いてみたけどリヴァイはビクともしない。




「………間違ってない」




ペトラさんを見ていたはずの瞳は、気付くと真っ直ぐに私を見つめていた。


「何を勘違いしているのか知らんが…俺が今、お前より優先させることなんて無い」


勘違い…?

え、でも。



「それよりもう一度言ってみろ。…俺から離れたいだと?」


「は、…」



離れたいわけ、ない、けど。

矢継ぎ早に質問されて頭が追い付かない。

ぐい、と手を引かれて距離が縮まった。


腕を捕まえている反対の方の手で、もう止まった涙の跡を確かめるように頬を撫でてから、私の少し乱れて目にかかった髪をふわりと耳にかける。

その仕草は、いつもの彼だ。



あ、あれ?



さっきも感じた…この感覚。
この、空気。
この柔らかい雰囲気。

胸がまたうるさいくらいに早鐘を打つけど。

それさえも癖になるほどのこの熱に浮かされたような感覚。


リヴァイがしっかりと、私のことを見つめてくれる、この時間。



「……離れたいのか?」



覗き込んでくるリヴァイの目は、いつも通りの色で私だけを映している。


「だっ…て、え?
私がいたら邪魔なんじゃないの…?」


「誰がそう言った」



リヴァイの様子は淡々としていて余計に意味が分からない。
私にバレてないと思って隠そうとしてるの?



「なんでそう思う」

「私以外の人に添い寝させたり…するの?」

「……あぁ?」

「だって、他の人を部屋に入れたりするんでしょ?」



ペトラさんを、とは何だか言えなかった。

だけどあれは、なんだったの?
見間違いなんかじゃなかった…!


「片付けと掃除要員として、緊急時には何度か部屋にあいつらを入れているが」


オルオが潰れた時がほとんどだ、とリヴァイは小さく付け加えた。


「…それを言っているのか?」


ほ、ほんとに私の勘違い…?

あのとき、見えなかったけどあの奥に他の人もいたってこと?


「な…なんで、リヴァイの部屋に潰れたオルオさんが行くの?」


そう聞くと、途端に彼の眉間に深く皺が寄った。


「……酔うとなんだか知らんが俺に付いてくる癖がある」


そんなこと…。

それを聞いて言葉を失ってしまった。


あれが、二人きりじゃなかったなら。

仲良さそうに笑いあっていたのはオルオさんのことで?
ペトラさんとオルオさんは仲が良いとはちらりと聞いたけど。

ただ介抱しに行っただけだったの…?


完全に力の抜けた私の手を見てリヴァイがまたもや不思議な顔をした。


じゃあ、リヴァイにはまだ決まった人はいないってこと?

わたしを見つめるこの瞳はまだ誰のものでもない?

わたしを触ってくれるこの熱い手も、まだ、もう少し独り占めできる?



それなら。
リヴァイの邪魔にならないなら。

邪魔じゃ、ないなら……


リヴァイの団服の腕のあたりを、無意識に強く掴んでいた。
それに気付いてリヴァイも掴んでいた手の力を緩める。



このままでいて、いいの…?

いいなら。
許されるなら、わたしの答えは決まってる。


「は、離れたく…」


離れたくなんか、ない。


「………ない…っ」


ぎゅう、と皮の団服が小さく音を立てた。

そんな私をあやすようにリヴァイの手の甲が私の顎のラインをくすぐりながらなぞる。




「……なら、離れずにいればいい。」



  


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