△ ナカロマ 67
あの時にあの集落で何が起きたのか。
何人かの兵士の話からまとめられたらしい報告書をほとんど放心している頭で読み込んでいると、背後の扉が静かに開いた。
思わず資料から目を離してそちらを振り返る。
「足はもういいのか」
それと同時に少し低い声が響いた。
一瞬だけ、呼吸を忘れる。
まだ室内に入らず扉に手を掛けたままのリヴァイが目に映った。
とくりと脈打つ胸に、無理やり気付かないふりをする。
会いたいとか会いたくないとか、色々考えたって意味ないんだと分かった。
彼を見た途端胸の奥から湧き上がるこの感情は、どんなに気付かないふりしたって誤魔化しようがない。
「あ、うん、もう大分…」
「…そうか」
今日も会えないと思っていたので声が上ずってしまう。
彼の目線がちらりと私の左足を見やる。
気付かれないように小さく深呼吸した。
普通に、普通にしよう。
身体を見られたことなんて今は考えなくていいから…!
「リヴァイは、何か探し物?」
次の一言は我ながらごく普通に発することが出来た。
ぎこちなくならないように顔を戻して、もはや完璧に読むことさえ出来なくなった手元の紙に目線を落とす。
「いや……」
てっきり資料を取りに来たのかと思ったけど、彼は入口から動かない。
「…お前の顔を見に来ただけだ」
その一言を聞いて耳を疑った。
努めて笑顔で返そうと思っていたのに、あまりに驚いて頬が固まる。
わたし…?
わたしに会いに来たって言った?
そういうこと軽く言える人だったっけ?
内心軽くパニックで、でも彼の気持ちが嬉しくてそれを表に出さないようにぎゅうっと手の中の書類を握りしめた。
なんだか、リヴァイが変わったような気がする。
といっても助けに来てくれた日くらいからなんだけど…。
彼が、変わった理由。
それって。
それは何度考えてもペトラさんに繋がっているような気がして、聞きたいけど聞きたくなかった。
知りたいけど、そんなの知りたくない。
扉の閉まる音がして、リヴァイの靴が木の床を鳴らす。
「顔色を見せて見ろ」
顔色。
顔、色…?
え、顔色っていった?
もしかして、さっきもそういう意味で言った?
私の怪我と具合を心配して来てくれただけ?
いや、それだけでもとても嬉しいことなんだけど…。
初めからそう言ってくれればいいのに。
顔を見に来るのと顔色を見に来るのでは意味が大分違って来る。
一人で慌てた私が馬鹿みたいだ。
「おい…エマ?」
歩み寄る気配を感じて持っていた書類を目のすぐ下まで顔を隠すように押し当てた。
振り向けずにいる私にしびれを切らしてか、更に近づいてくる。
か、顔をそうじっくりと見られるのがこんなに恥ずかしいなんて。
「や、やだ…」
「ああ?何言ってる、こっち向いてみろ」
肩を掴まれて無理矢理振り向かされる。
顔を半分隠したまま見上げると、少し無表情で涼し気な眼に見降ろされていた。