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 ナカロマ 66

数日後、朝食を済ませてから一本だけ松葉杖を手にした。

行き先は調査兵団本部の…資料室。

医療班の建物からは少しだけ離れているけれど、先日手前まで歩いて見たら無理な距離ではなかった。

怪我人や病人を気遣っているのかただの決まり事なのか、または本当に知らないのか分からないけど、
ここには壁外調査の細かい被害状況を教えてくれる人はいなさそうだった。


いてもたってもいられずにいた時に頭に浮かんだのは、手伝いをしたときに見た折り重なるように積まれていた関連書類の山。

調査が終わってから三週間近くも経っているんだから、報告書やらなんやらまとめてファイルされていてもいい時期だろう。

自分のことばっかりでリヴァイにも、ペトラさんにも調査の結果なんて聞きもしなかったことを後悔した。


向かうのは本部内の、三階。

資料室は上官室と同じ階にあるので少しだけ緊張する。


負傷した足での階段の上り下りはまさに骨が折れる。
…実際折れているんだけど。


何日も寝たきりだったので本当に体が訛ってしまっていた。

訓練をしたのも壁外に行ったのもつい先日のことなのに、体が重く感じて息が上がった。

こんな状態で、また以前と同じように動けるのか少し不安になるくらいだ。

ちらほらと誰かの足音や声は聞こえるけど、誰にも会わずに目的地の扉の前へ到着した。


誰にも、って。

自分で会いたくないと言ったくせに、無意識にその姿を探している自分にもやもやする。

もし会えたら、って思ってる。


…そもそも今本部内にはいないかもしれないのに、なんて考えながら左手で軽くノブを回した。

室内に足を踏み込んだ瞬間にこの部屋特有の紙の匂いと温度の違いに気付き、軽く肩をすくめる。


やっぱりこの部屋、肌寒い。


あまり日は入らないけれど窓からの明るさで資料を見る分には困らなさそうだ。

松葉杖を入り口近くに立て掛けて、左足に思い切り体重をかけないように小さく歩くようにしながら広くもない室内をうろうろする。

がちがちに石膏で固定されているのでもうほとんど痛みは感じない。

医師からも激しい負荷をかけなければ軽く足をつけて歩いていいと言われていた。


新しいものはそんなに分かりにくいところには置いていないはずだ。

一番手前に山積みにされた箱の中を軽く覗いてみると、目当ての報告書を見つけた。
パラパラと、数枚ごとにまとめられた書類を上から順に目を通していく。


…やっぱり、こんなところには機密情報は書かれていないみたい。


助けられた時にそれぞれの班が引いていた荷馬車に載っていたものはなんだったのか、これでは知る由もない。


壁外調査の主要な目的も当たり障りのない言葉が連ねてある。

これだけじゃないはずだ。

ばさりと見終わった資料を重ねて、新しい束を掴んで目を走らせると、調査結果の文字を見つけた。
この報告書には討伐総数と殉職者名簿も含まれているはずだ。


見たくない、と反射的に思ってしまう自分を抑えて頁をめくる。
脳裏にはまだ生々しい記憶が残っていた。


見逃さないとは分かっていても、書かれている文字を食い入るように追っていく。

指で一つ一つ班の番号と人数を辿る。
自分の人差し指の下に、見たくなかった名前が書かれていた。


…副分隊長。

ダミアンさん。

他の班員の名前。


隣の班の人の名前も、間違いなく記されていた。


かなりの人数が帰ってこなかった。

体の中で悲しさと怒り、やりきれなさと悔しさがぐるぐると渦を巻いて、皆の名前をなぞる爪に力が入った。

自分の非力さに反吐が出る。

…色んな感情が混ざったこの気持ちに名前はあるのか、私には初めてのことで分からない。


それでも、カリーナ分隊長の名前は最後まで見つからなかった。

最後に彼女を見たのは混乱した戦闘の真っ只中。
額に大きな傷を負っているのが見えて、合流しようにも巨人に前を阻まれて向かう事が出来なかった。


分隊長、帰ってきてるんだ。

…よかった。


私たちの班から生きて戻ったのは私を含めて三人。

たったの、三人だった。



  


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