△ ナカロマ 64
そのまま何日も動けないくらい左足が炎症を起こして、
落ち着くまではかなり生活も制限された。
左足は外傷骨折だと説明を受けたがあまりピンとこずに、
一か所だけではなく二か所ほど折れていたと後から聞いて発熱と炎症が長引く原因が分かって納得した。
それからも痛みが引かずに夜目が覚めることが続き、
すっきりとした頭で起きられるようになったのはそれからまた更に一週間程経った後だった。
窓から入る朝の日の光で起きるというのはとても幸せなことなんだな、としみじみ感じる。
この頃には左足は焼いた石膏で固定されていて、多少動いても支障はないと言われてホッとした。
本当はお風呂に入った方が血行も良くなって骨もくっ付き易いと言われたけど、
骨折の場所が場所だけに許可が下りず、石膏が取れるまでお湯で体を拭くだけになった。
リヴァイには……あれから会えてない。
同室の子が言うには丁度私が寝ている時に二度ほど顔を見せたらしいけど、
昼も夜もなく痛みが引いた時に睡眠を確保するしかなかった私を見舞うのも難しかったのかもしれない。
髪も軽くお湯で洗うだけだし顔色も悪いし、正気の頭でどんな会話をすればいいか分からないしで、
出来れば会いたくなかったので助かった。
体力も大分回復しベッドで寝るだけの生活が少し退屈になってきて、建物内をウロウロ歩き回ったり、少し外に出たりして暇を持て余していた。
同室の子は駐屯兵団所属で、ソニャというハキハキとした綺麗な子だった。
立体機動で移動中に転倒し腕と肩を折ってしまったらしい。
偶然にも同い年で会話にも花が咲いた。
他愛ないことばかりを話していたけど、気も紛れるし何より楽しかった。
リヴァイのことは黙っていたけれど、何度か顔を出す彼とエルヴィンとの関係を興味津々に聞かれて、
私の片思いだと正直に話してしまった。
そんな話をしていたものだから、私が寝ている時にリヴァイが来たのを見て必死に私を起こそうとしたけれど彼に起こすなと止められてしまったらしい。
「何度もエマの名前呼んだのに起きないんだもん〜」
「ご、ごめん。
でもね、会いたいんだけど会いたくないから、これでよかったのかも…」
「もうそんなこと言って…本当に後悔しないのね!?」
後悔…するのかな。
もう、自分がどうしたいのかも分からない。
私って一度寝ると起きないって本当だったんだ、と彼の言葉を思い出していた。
駐屯兵の友達に会いに行くというソニャに手を振って、
自分のベッドに腰を下ろす。
顔を上げると窓の横に着ていた団服が掛けてあるのが目に入った。
ジャケットの下に着ていたシャツを明るい場所で改めてマジマジと見てみると、一度洗って貰ったというのに血と土の汚れが落ちないようだった。
あれ、
ボタンがない…?
ふと見るとシャツの一番上に付いていたはずのボタンが二つほど無くなっていて、代わりに簡易な麻ひもが括り付けられていた。
脱いだ時は疲労困憊の状態でお医者さんに手伝って貰ったのでシャツのボタンがどうなってるかなんて気にもしなかったけど…。
こんなに丁寧なことまでしてくれるなんて、医療班の人達ってすごい、なんて感服していた。
「怪我の経過はどう?」
いつの間にか部屋に入って来ていたあの女性医師の声が背後から響いて、振り向いて改めて会釈をする。
彼女の顔にはいつかの医療班の人たちと同じく布が巻かれている。
外から帰ってきたところなのかな。
「とってもいいです。
本当にありがとうございました」
「いやいや、どういたしまして。助かってくれてこっちも嬉しいよ」
彼女はそう言って目だけで笑ってみせた。
「一度全体からはぐれたのに無事に帰ってきてくれて本当によかったって、みんなで話していたんだよ」
「は、はい…、本当に皆さんに感謝してます」
そう返事をして壁に掛けられたシャツに目を向けると、女性医師もつられたようにそちらに目をやった。