△ ナカロマ 63
布で目から下を覆っている数人の医療班員とすれ違った。
これからどこかに治療にでも行くんだろうか。
荷物のように抱えられたまま治療室まで運ばれて、暴れてもきっとリヴァイは私を降ろさないと思い不本意ながらも観念した。
治療室に入ると五、六人の兵士が寝かされていて、二人の医師が手分けをして診ているようだった。
他の兵士の治療にあたっていたその内の一人の女性医師が顔を上げ、そんな私たちを見て目を丸く見開いてから、少し目元を緩めた。
その女性医師は赤毛の長いくせっ毛を無造作に後ろに引っ詰めて、いかにも多忙といった風貌だ。
化粧っ気のない白い肌にそばかすがちらほらと飛んでいる。
「担架も人手も足りてないの、そのままベッドまで運んでくれると助かるよ。
そっちが空いてるから使ってちょうだい」
そう促されてリヴァイは私を空いていた車輪付きのベッドに降ろすと、左足を少し上げて真っ直ぐになるようにクッションを置いて固定した。
無意識に、動かそうと足に力を入れてしまう。
「う……っ…!」
「動かすな。
俺は話をつけてくる…大人しくしてろよ」
小さい子に言い聞かせるようにそう言って、後ろ手に備え付けのカーテンを閉めて出ていくリヴァイをこっそりと不満げに見送る。
…最後の一言がなければいいのに。
心配してくれるのはとても嬉しいけど、彼の言動の全てがまさに親戚の女の子に対するもののような気がして、なんだかやるせない。
優しい彼だけでは満足できないなんて
…私はかなり我が儘だ。
しばらくして先程の女性医師が私の元に早歩きで向かって来て、有無を言わさずシャツの合わせを勢いよく開かれた。
音をつけるなら、まさにばりっと言う感じ。
「あっ、あの…!?」
「ああ成る程、内出血してるね。
打ち身と、肋骨にもしかしたらヒビがあるかも…これは少し長引くかもしれないよ」
「え…?」
内出血?
そう言われて初めて服の下の自分の肌を見下ろすと胸からお腹にかけて青い部分や赤黒く腫れている部分があるのが見えた。
道理で、鈍く痛むはずだ。
あとは頭と腕か、と彼女はぶつぶつ呟いて、無遠慮に頭を掴まれて左へ右へと向かされる。
「頭の傷は腕に比べてそんなに大きくないね、もう血は止まっているし。
炎症と化膿は怖いから消毒しておこうか、」
頭に傷?
そんなの、自分でも気づかなかったのに。
えっと…、待って。
「どうして診るまえに分かったんですか…?」
取り敢えず着るものを変えて、と渡された白い検査衣に着替えようとするけどあちこちが痛んでどうにも手こずってしまう。
「さっき細かく教えてくれたよ。
随分心配してたんじゃないかな」
着替えがどうにも上手く出来ない私に手を貸してくれた女性医師は、服を着替えさせた後腕や足の怪我を確認した。
左足に巻いていた布を全て取られて、彼女が骨の具合を見るように軽く触りながら問診していく。
その問いかけにポツポツと答えながら、頭の中はあれから戻ってこないリヴァイのことしか考えていなかった。
……随分心配してた?
確かに移動はあんなに手伝ってくれたけど。
そんなの、一言も言わなかったのに。
いつもいつも彼は言葉が足りない。
面と向かって具合を聞いてくれてたら、大丈夫だよって笑って返せてたのに。
「先生、あの、リヴァイは?」
「あなたの顔を見てから行きたかったみたいだけど、調査兵士が呼びに来てそのまま戻っていったよ」
「そう、ですか…」
私も、顔を見せてから戻って欲しかったな…。
あからさまに落胆する私を彼女は少し横目で見てからカルテにペンを走らせる。
それを書き終えると、若い一人の女性医療班員が指示を聞きながら私に手早く処置を施していった。
この人も見習いなのかな、なんて考えていたら気が付くと頭から足まで至る所に包帯が巻かれていて唖然とした。
一通り処置が済んだ後、車輪が付いたベッドを押されて奥の準個室まで移された。
移動した部屋は二人部屋らしく、もう一人の子は薄いカーテンの向こうで寝ているようだった。
医療班の人も出ていって、ふぅ、とやっと息をつくと、
今更頭が痛みを思い出したように酷く重くなった。
体も泥のように力が抜けて行って、さっきまで立ち上がっていたのが嘘のように体中が強い疲労感に襲われる。
…でも、もういいんだ。
帰ってこれたんだから。
背中を沈めているベッドは贅沢なものではないけど、それだって地面より、木の幹よりずっと快適だ。
目を閉じると、周りの音が一気に遠のいてそのまま深く意識が沈んでいった。