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 ナカロマ 58

きっとここからは馬での移動になると思い、怪我をした足が動かないようにさらに上から固定していた手が、思わず止まる。
色んなことを考えていた頭の中が、一瞬殴られたように真っ白になった。

リヴァイの…班。
ペトラさん。

静まり返った森へ、馬の駆ける音が小さく聞こえ始める。
それを確認したリヴァイの手から空に向けて、パシュ、と信煙弾が放たれた。
それから間もなくして、馬の声を響かせながらペトラさんが私たちがいる木の下へと到着したようだった。

兵長、と良く通る声が下から聞こえた。


「到着しました!
他の班員は予定通り別ルートで合流します!」

「…そうか。荷物から先に下ろす。
そこで待機してろ」

「エマちゃん、大丈夫でしたか!?」

「−−−ああ、問題ない」


静かな森に、二人の声が響く。
それが私の耳にもようやく届いて、呆けていた頭が動き出した。

…そうか。
さっきからリヴァイが確認してたのはペトラさんからの信煙弾だったんだ。

なんで…、
なんでそんなこと考えられなかったんだろう。

リヴァイが班と一緒に行動するなんて、少し考えれば分かるはずなのに。
それからもう少し考えれば、リヴァイがペトラさんと一緒に私を探しに来てる可能性が高いことも分かったはずなのに。
本当に私はリヴァイが私を助けるために一人でわざわざこんなところまで来たなんて思ってた…?

ここに来てくれたのはペトラさんが言ったから?
ここを見つけられたのも、もしかしてペトラさんのおかげだった?

どくんどくんと心臓が早鐘を打つ。

忘れかけていたあの夜を思い出す。
仲の良い二人が、寄り添う。

…気持ち悪い。

これは、怪我のせいなんかじゃない。
…ものすごくペトラさんに嫉妬してる。
こうしてリヴァイの片腕として動いて、信頼されて。
壁外でこんな風にリヴァイに迷惑をかけるなんて、彼女は絶対にしないんだろう。
自分が情けなくて、彼女が羨ましくて、気分が悪い。

二人が一緒にいるところなんて、もう見なくていいと思ったのに…!


「……エマ?」


不意に降って来たリヴァイの声に顔を上げる。

「あ…」

少し息が乱れた私を見て、彼が手を伸ばす。

好きなのに。
こんなに、好きなのに。

−−−−−やだ…っ!

その手が私に触れようとして、思わず体がびくりと跳ねた。
一瞬、私もリヴァイも驚いて顔を見合わせる。

わ、わたし、今…。
リヴァイに触られるのを嫌だと、思ったの…?

リヴァイの表情は読めない。
いつも通りの無表情、だけど。

彼の瞳に、紅い色が見え隠れした気がした。
次の瞬間、止まっていた彼が急に私の手を掴み、足に巻き付けていた布が手の平から滑り落ちた。

「………」

沈黙が痛い。
でも上手く説明なんて出来る気がしない。

リヴァイは固めた足の上から履こうと自分の横に移動させたブーツを横目で見て、ものすごく不機嫌そうに口を開いた。


「……お前、さっきから何してる」

「だ、だって、馬に乗るんでしょ…?」

「立体起動無しのお前を一人で乗せると思うか?」


え、それって、どういう…。
まさか、リヴァイと二人で乗るわけじゃないよね?
ペトラさんもわざわざ余分に一頭連れてきてるのに…?

「…ペトラさんと私が二人で乗る、とかじゃないよね…?」

絶対に違うと分かっているのにリヴァイと二人で乗ることに戸惑って、ついそんなことを聞いてしまう。


「……何かあった時にペトラに迷惑を掛けたいのか?」


…やっぱり、ものすごく睨まれるだけだと分かってたけど。



  


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