△ ナカロマ 57
雨も止んで空気も乾いてきたころ。
リヴァイは私の肩を抱き寄せていた手を緩めて、空を仰ぎ見た。
「………帰るぞ」
帰る。
そうか、帰らなくちゃ。
皆のいる、エルヴィンたちのいる壁の中に。
…ペトラさんたちのいる、あそこへ。
もう二度と帰れない、帰らないと思っていただけに
そんな当たり前のことが頭から抜けていた。
リヴァイの手が体から離れ、わたしに皮の水筒を手渡してくる。
言われるがまま、まだ上手く力が入らない手でそれを受け取って喉を湿らせた。
それまでずっとそばにあった彼の体温が離れていって、どうしようもなく切ない。
帰ったらもうリヴァイには手が届かなくなる気がした。
もう彼とこんなに近づくことはないかもしれない。
帰らなくてもいいから、ずっと二人きりでいたいなんて…
なんて馬鹿なこと考えてるんだろう、わたし。
そうして考えているうちに、彼の手から解放された自分の状態を見て目を見開いた。
ベルトが。
全身の固定ベルトが、外されてる。
体の締め付けが無いと思ったら…!
「リヴァイ…!」
少し焦って彼に声を掛ける。
そうすると、彼も少し驚いた様子で振り返った。
「私の固定ベルト、外したの?」
ああ、と事も無げにリヴァイは答えてまた手元の作業に戻った。
…壊れていたわけではないみたい。
えっと、と一人でベルトの位置を思い出して少し赤面した。
上半身も下半身も、体中着けていた固定ベルトだ。
外すとなるとジャケットを脱がせて、ブーツを脱がせて、それを私の意識が無いままするなんて
かなりの手間だっただろう。
それよりなにより、リヴァイに全身を触られたことに頭が付いていかなかった。
そ、そういえば、寒気がすごかったときに誰かの手が体中を触ったような、触ってないような…。
でも、実際にリヴァイは私の固定ベルトを外したわけで…っ!
意識がないときにそんなの、恥ずかしすぎる…。
それにここは木の上で、まだ壁まで距離もあるのに立体起動なしでどうするの…?
脱力したようにぐるぐる色んなことを考えていた私を、リヴァイはもう一度振り返った。
「怪我してたらどうせ使えねぇだろうが。
何をそんなに焦ることがある」
え…?
彼の物言いは全てが彼の構想通りに動いているときのそれだ。
例によって、わたしには何も説明してくれない。
赤くなっていた顔に気付かれないように呼吸を整えつつ、少し考えて質問を変えた。
「…ここからどうやって帰るの?」
私の立体起動装置とブレード等を一纏めにし終わったリヴァイは、私を促すように森の外の方角を顎で示した。
「俺の班が来る。
ペトラが、もうじきここに着く頃だ。
…お前は何も心配しなくていい」