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 ナカロマ 53

どんどん体温が下がっていく感覚がして目を閉じる。

手から皮の水入れが滑り落ちて、地面の落ち葉の上に柔らかく落ちた音が聞こえた。


真っ暗な瞼に、明るい光が透けて見えたのはそれから少ししてからのことだったと思う。


途切れ途切れの感覚の中で、木の下にこちらを見上げている一匹の巨人が見えた。


あ、と思う。

…集落で見た、あの、髪が長い巨人だ。
朝になってわたしの、残された人間の匂いを追いかけて来たのかな。


考えれば考えるほど不思議な生き物。

結構あの場所から距離はあると思ったけど…。

人間を匂いで判別してる?
それとも、感覚的なもの?


…裏を返せば近くに人間が一人もいないからここまで来たってことだよね。

やっぱり…、
少し期待したけれどあの集落では誰も生きていなかった、ということ。


…この周りにも、一人も生きている人間はいないんだ。

人間はわたし一人しか…いない。

こちらを物欲しげに見上げるその瞳には食べたいということ以外の感情というものが無くて、
それを私も虚ろな頭でただ見下ろしていた。


その耳まで裂けた大きな口を見ていると嫌でも自分が齧られる想像をしてしまう。
形こそ人間に似ているけど、どこまでも暗いその眼は感情の冷めた爬虫類を思わせた。


こんな生きるか死ぬか自分でも分からない私を…
そんなにも食べたいのかな。


頭が上手く回らず、意識が自分から離れていって巨人側から自分を見上げている様な気持ちにもなってくる。


美味しいか不味いかで食べるわけじゃないんだ。

生きてる人間に興味を示して、どんなに大部分の体が残っていても絶命した時点で対象から興味を失う。


生きていれば…生きている人間を食べられさえすればいい生き物。


だから私がどんなに不味そうでも関係ない。

お腹が減って食べるわけじゃないんだから。

この木の上の人間を食べ終わったらまたその辺りを徘徊するだけ。

…木の上から落ちてこないかな、って。
そう思ってるのかな。


そういえば…ワイヤー巻き取ったっけ。

操作装置は落としてないよね?
確認しようにも体が動かない。

あれはベルトと繋がっているから、一つでも落としていれば引き摺り下ろされてしまう。


…ああ、もう少し上まで上がればよかった。

あの人間の様な手足で器用に登れる様になれば、簡単にここまで届いてしまう。


人間の体を一口で食べられそうなほど大きな口。

あの大きな手で今度は腕を掴まれて、頭を掴まれて。



そうしたら、もう逃げられない……。



  


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