△ ナカロマ 51
馬の背に揺られて、どれくらい経ったんだろう。
揺れるたびに体のあちらこちらが鈍く痛み、ゆっくりと進むことしかできない。
時々意識が飛ぶので時間の感覚がおかしかった。
一日中そうしていたような、ほんの一瞬だったような。
…どこに向かえばいいんだろう。
この方角なら一応壁に壁に向かっているはずだけど、辺りは真っ暗であまり確信が持てない。
でも、壁の周りは巨人も多いし辿り着いても駐屯兵団に見つけてもらえるとも限らない。
取り敢えず、日が昇った時に巨人の手の届かないところに逃げなきゃいけない。
…けど、そんな都合のいいところってある?
体力の消費が激しく、肩で息をする。
馬に乗るだけなのにこんなに辛いだなんて思わなかった。
揺れるたびに足に激痛が走り、それを少しでも緩和させようと他の部位に力を入れるがカバーしきれずに息が切れ切れになる。
ふと目の端に暗闇の中、一際黒い影が映ったので山かと思い顔を上げた。
こんな近くに、山なんてあったっけ。
あ…、
巨大樹…。
壁内でもいくつか点在しているその森はかなりの高さを誇る。
壁外でのそれは調査兵団の貴重な拠点なので、
兵団の出入りがある森であればなにかしらの装備が置いてある可能性が高い。
昔の厩舎か、それか川でもあればこの馬も休ませることが出来る。
「…よかった…、
あそこに行こうね」
ぽんぽんとたてがみを撫でて馬にそう声を掛ける。
よかった。
同時に自分にもそう言い聞かせた。
日の出まであとどれくらいだろう。
取り敢えずそれまでには上に登りたい。
もう力が入らない手の平にもう一度手綱を巻き直した。
その森に近づくと、丁度隠れていた月が顔を出した。
随分昔に整備されたような林道が残っているのが目に入る。
乗り捨てられた荷物運搬用の機具は今はもう草木に覆われて、さながら忘れられた遺跡のようにも見えた。
森に入ると木々の葉に阻まれて月の光は届かなくなっていった。
馬の蹄が草の下に残る煉瓦を踏む音が夜の森に響く。
真夜中の空気はとても澄んでいて、木の皮のような、水気や湿気を含んだような森の香りは今まで嗅いだことのないものだった。
壁内での知っている森を訪れるのはそういえばいつも昼間で、太陽の木漏れ日を受けたものしか見たことがなかった。
こんな、少し不気味で何かが奥に潜んでいそうな雰囲気の森は初めてだ。
それこそ、巨人だけじゃなくてもっと怖くて気味が悪いものが出てきそうな…。
そこまで考えたとき、ひゅう、と吹いた風に乱れた髪が視界を遮り、その一瞬の後急に目の前が開けた。
森の中で切り取られたような小さな空間に、小川とも呼べないような湧き水が落ち葉の下に流れているようだった。
これで少しは馬に水を飲ませられる。
…そろそろ馬に乗るのも限界だったので助かった。