△ ナカロマ 42
『これでいいのか』
思ったより力強く握ってくれた彼の体温を感じて、思わず頬が緩んだ。
心の中に灯がともった感じ。
暖かくて、自分以外の体温に安心した。
誰かが一緒にいてくれるというだけで気持ちがあんなに変わるなんて、あのときの私には信じられないことだった。
それから、腫れた目の熱がゆるゆると眠気に変わっていって、
あっという間にリヴァイの手の熱に誘われるように眠りに落ちていった、と記憶している。
夢との狭間でさっきと同じようにリヴァイが何度か私の髪でさらさらと遊んだ気がしたけれど、
もしかしたら彼のあの様子だと実際にしていてくれたのかも知れない。
恥ずかしがった自分が馬鹿らしくなるくらい心地よくて、もう夢でも現実でもどちらでもよかった。
…そういえば、エルヴィンの態度が変わりだしたのもあの頃くらいだった気がする。
私は相変わらずリヴァイの後をついて回ったりしていたけど、
エルヴィンはそれを見つけると時々口に出してからかうようになった。
リヴァイも当然ながらそれにまともに返すことはなかったし、
私もリヴァイに懐いていたのは事実なので言われても特に気にすることもなかった。
…私の、リヴァイに対しての気持ちが少し変わったからなのかな。
それまでも好意はもちろん持っていたけれど、年上に憧れていた思春期特有の片思いに近かったかもしれない。
それが、リヴァイの手の力強さだとか声の抑揚だとか、彼の意見や話す内容だとかをひとつひとつよく思い返すようになって、
私もリヴァイという人間をしっかり見つめるようになった。
はじめて抱きついてしまったのも、たぶん、この頃。
エルヴィンや親戚とする抱擁とは全くちがうもの。
…私的、には。
それからはリヴァイとエルヴィンが壁外調査に行くたびに心配で眠れなくなり、
無事な姿をやっと見れると居ても立っても居られなくて、
初めてエルヴィンより先にリヴァイに抱きついてしまったときはその場の皆に微笑まれた。
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完全無欠の英雄なんかじゃない。
生身の人間なんだから、目の前で何度も何度も部下を失ってリヴァイが何にも感じないはずない。
一度だけ寝かしつけてくれた時、握ってくれた彼の力強くて優しい手を思い出す。
すぐに寝てしまってぎゅっと握ってくれたのはあの一度きりだったはずなのに。
朝起きて、もちろん彼はいなくて。
なのに自分の手だけがまだその感触を覚えていて驚いた。
私が寝てからも握っていてくれたのかな、なんて自分に都合よく考えた。
『…俺はいいんだ、気にすんな』
誰よりも部下を失って傷ついているはずだ。
顔に出さないし、口にも出さないけど…誰よりも悲痛な思いと巨人に対しての憎しみを抱えているかもしれない。
後悔しないようによく先のことまで見越して、物事を考えていることも知っている。
…もしかして。
寝られないときは、助けられなかった人たちのことを思っている?
人類最強なんて言われても、リヴァイにだって出来ることとできないことがある。
エルヴィンの家で、リヴァイの自室で。
夜遅くまで見つめていたあの書類。
手の中の殉職者名簿に目を落とす。
あまり寝られていないって、彼はしっかり教えてくれていたのに。
人のことばかり心配して、自分の体調はどうなの?
…私にも、リヴァイの心配をさせてほしい。
ーーー泣いていた私を見つけてくれた時、彼はなんていってくれた?
少し掠れたあの声を思い出す。
『…一緒にいてやるから』
会いに、いかなきゃ。
書類を元あった場所に戻して、気が付くと、半ば走り出していた。
