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 ナカロマ 39

調査兵団本部の三階にある上官室。

廊下の燭台にはぽつぽつと灯りが既にともり、薄暗い中一際大きな扉を開く。
壁外調査の一日前、本部内もこの時間になると人気はまばらになり、上官室には灯りもついていない。
私がもっている追加事項は最重要書類の類ではないので、この部屋に置かれている他の該当書類と一緒にしておけばいい。

分隊長は資料別に分けられた机の上に置けばいいと言っていたけど…
廊下から差し込む灯りを頼りに資料の中身を確認してみると、

−−−第〇△回壁外調査−−−

の文字が目に入った。
いくつかすでにファイリングされた資料とは別に、まだ封がされていない。

今回の壁外調査のもので間違いない。
すでにまとめられているものは以前の壁外調査のファイルのようだ。

会議用の長机の上には今回の壁外調査の詳細事項や注意喚起、各班員構成等が大雑把に並べられ、その一番端に”追加”、とメモ書きされた資料が積まれていた。

「…これかな」

書類内容や構成が手持ちのものと一緒なので間違いなさそうだ。
それにしても、すごい書類の量。
今回の壁外調査が終われば、また誰かが以前の私のように資料室でファイル整理に追われるんだろう。
…また、私がやるかもしれないけど。

そこまで考えて、前回の壁外調査のファイルの表紙を何気なくめくるとしっかりと綴じられていなかったのか、数枚がふわりと床に落ちた。

足元に散らばったその紙を拾って、思わずはっとした。

−−−第〇×回壁外調査、殉職者名簿−−−

壁外調査では、少なからず犠牲者が出る。
理解していたはずなのに、少しだけ、手が震えた。
以前にも資料室で総合的な犠牲者の数は見ていたのに。

ひとりひとりの名前があるだけでこんなに現実味を帯びるものなのか。
しっかりと手で掴んで灯りで見やすい位置にかざしてみる。

『身元判明兵士名簿』

−−−『身元判別不明遺体数』、『行方不明者名』

身元が特定されている兵士は所属兵団と班、氏名、年齢等が記載され、判別が出来なかった遺体には番号が振られている。
壁外で遺体回収が出来なかった場合も多い。
兵団ジャケットさえ確認出来れば身元は分かるはずなのに、それさえも出来なかったということは…。

どれくらい凄惨な状況だったんだろう。
数字や報告を見ただけで壁外がどんなものかなんて分かるはずないのに。
分かった気になっていた自分に身震いする。

氏名、所属……当時の年齢。
名簿の中の、自分より年下の兵士が多数いて胸がざわついた。

会ったこともない、顔も知らない兵士。
それでも確かにここに存在していた。
手は未だに震えるけれど、こうやってこの調査兵団が続いていくんだと思った。


みんな、きっと怖かった。
私だって自分が勇敢だとは思えない。
だけど壁の中で現実を見ないふりして意味もなく生きるよりは、
自分で生き方を選んでやるって、そう覚悟したんだから。



  


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