△ ナカロマ 25
壁外調査の準備は着々と進められ、エマが調査兵団の日々も目まぐるしく過ぎて行った。
エマがリヴァイを目にする機会も更に減り、なにかと理由をつけては本部を歩き回りその姿を探すが、どうにも会えない日が一週間ほど続いていた。
何度か彼の部屋を訪ねようかと思ったが、まだ踏み切れずにいた。
本部倉庫に置かれた立体起動装置の予備を確認する、という業務を頼まれたので一人静かな倉庫で備品をチェックしていく。
見慣れた立体起動装置を手にしながら、ここに来てからしっかりとした訓練が出来ていないことを思い出した。
調査を成功させる為に尽力はしたいが、自分の実力は落としたくない。
いつかは兵団の一員として外に出るのだから、せめて訓練には参加させてもらいたい…。
実力を落としては調査兵団の…リヴァイの役にも立てない。
リヴァイ…。
今、何してるの?
ふと、窓の外から廊下に目をやるとリヴァイとペトラ達が両手に書類を抱えて本部の建物に入ってくるのが見えた。
「…!」
リヴァイ!
反射的に、足が動いていた。
ーーーーーーーーーー
「…兵長、この量を今日一日で終わらせる気ですか?」
各々抱えた書類を会議室に降ろしたところで、ペトラが恐る恐る自分たちの班長の顔色を伺った。
「…そうだ、壁外調査まで時間がない。お前ら、整理が終わるまで昼抜きだと思え」
(えーーーー!!!)
皆が内心そう思ったが、口に出せる者はいなかった。
渋々ながら、早く済ませてしまおうと資料に手を付け始める。
コンコン、と、そこへノック音が響いた。
全員がその音に振り返ると、エマが遠慮がちに開いたままのドア横から顔を覗かせた。
その顔を見て、皆の手が止まる。
「あの、お邪魔しちゃってすいません。リヴァイ…兵長にお話があって…」
エマへ向けられていた視線が、今度はゆっくりとリヴァイへ向けられた。
リヴァイの表情に変化はない。
「…どうした」
リヴァイ班全員の前で発言することにエマは一瞬躊躇いを見せたが、小さな声でリヴァイに声を掛けた。
「…お昼とか、もう食べた…?」
((昼食の誘いか…!))
(兵長、どうするんですか!?)
(兵長はどう出る…!?)
一同が固唾を呑んで見守る中、リヴァイは考えるそぶりもなく扉へ向かって歩き出した。
「……お前ら」
((…!!))
「…一旦休憩だ、午後から再開する。行くぞ、エマ」
「えっ、あの、リヴァイ…!」
リヴァイはいつものような速足でエマの腕を掴むと、さっさとその場を去って行った。
「………」
((弱いんですね、兵長…))
残された面々は一気に肩から力を抜いたように一つ息を吐いて、お互い軽く目配せをする。
「…今のはどう、エルド?」
掴んでいた書類をぱさりと戻してペトラがにやりとした笑みを浮かべながらエルドを仰ぎ見る。
いわゆる彼女のしたり顔である。
「…うーん、決定打とは言えないが、まぁ認めるよ」
最早ペトラの主張に大きく反論する気もない。
「分かりやすい兵長も男らしいな!」
「ペトラ、あれではお前に勝ち目はないな。泣くなよ!」
「分かってるってばー!うるさいな〜オルオ。さ、私達もお昼行きましょ!」
グンタとオルオは何故か若干嬉しそうな表情を浮かべ、それをペトラが軽く小突いて、一行は賑やかに会議室を後にした。