△ ナカロマ 18
−−−−−−−−−−
少しだけ開いていた扉を、リヴァイは軽く押した。
室内に散乱したファイルが目に入る。
その中で彼女はカウチの肘掛の部分に頭を乗せ、目を瞑っていた。
膝の上には読んでいたと思われるファイルがかろうじて載っているが、それも少しの振動で床へと落ちそうだった。
仕事場を聞いたときから予想していた通りのその姿がそこにあった。
「…やっぱり、寝てんじゃねぇか」
こいつのことだ、頑張りが空回りするような気がしていた。
一度だけガキの頃に寝かしつけた事があったが、こいつは一度寝ると中々起きないタイプのようだ。
それは今も変わっていないらしい。
昼間は晴れていても、朝夕になると気温が下がる。
この資料室には日が入らないので一日中室温は他に比べて低い。
時刻は夕暮れ間近だ。
リヴァイは室温の低さに気付き、自分のジャケットに手を掛けた。
「兵長…、
あ。エマちゃん…寝てるんですか?」
後ろから資料室に入るリヴァイを見つけたペトラが廊下から顔を覗かせた。
ペトラはリヴァイの肩越しに少女がカウチにもたれているのが分かって、彼に声を掛ける。
「疲れてるんですね…。
今日は冷えるから風邪引いちゃうかも。
毛布でも持ってきましょう、か…」
ペトラはそう言いかけて、彼の行動に目を見開いた。
「…いや、いい」
リヴァイはジャケットを脱ぎ、彼女に掛けるとその肩に自分の手を滑り込ませた。
そのまま腰をかがめてエマを軽々と横抱きにすると、リヴァイは立ち上がった。
彼女の寝顔を見つめる彼の横顔は柔らかい。
蝋燭の灯りが揺れていて見えにくかっただけで、実際には微笑んでいたかもしれない。
小さい子を見るような、愛しいものを見るような優しい目。
「……」
今までそんなリヴァイの表情を見た事がなかったペトラは、思わず彼を凝視してしまった。
ゆっくりと振り向いたリヴァイは、何事もなかったかのようにペトラに声を掛けた。
「…ペトラ、悪いがここの灯りを消しておいてくれ。
俺はこいつを運んでくる」
「は、はい…」
そう言って部屋を出ていくリヴァイに道を譲り、ペトラはその背を見送る。
彼が進んで他人に触れることにも驚いたが、女性を抱え上げることがあるなんて今まで聞いた事が無い。
大切なものを運ぶような仕草で、乱暴に扱うそぶりは全くなかった。
兵長の、あんな優しい顔、初めて見た…。
彼を尊敬し、少なからず好意を抱いていたペトラはリヴァイの行動に言葉が出なかった。
今まで誰にでも平等に接してくれる人だと思っていたが、それは違っていたようだ。
彼にも特別な人に見せる表情や態度がある…。
それを目の当たりにして、玉砕した気分だったが、不思議と気分は悪くなかった。
「…兵長もあんな顔するんだ。いいなぁ。
ちょっと、エマちゃんが羨ましいかも…」
燭台に火消を被せて灯りを消す。
微かに、焦げ臭い匂いがした。