△ ナカロマ 11
エマとレミの姿が歩いて行った後ろで、ペトラが心配そうな声を出した。
「…ねえ、オルオ。
さっきエマちゃんに声を掛けてきた奴って、セクハラで有名な奴じゃなかった?」
いつか誰かから聞いた、断ってもしつこくつきまとわれた女の子の話を思い出したのだ。
エマが呼んだ名前がその男の名前と同じ気がする。
「ん?…ああ、レミか。
あいつは若い女には目が無いからな」
押しに弱そうな先ほどのエマの姿が目に浮かんだ。
その気がない年下の女の子に言い寄るなんて、許せない。
「エマちゃん、大丈夫かな…」
ぽつりとペトラが呟いたとき。
「オルオ、ペトラ。
…何の話だ」
そんな二人の背後から、とびきり不機嫌そうな声がした。
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「エマちゃん、今日こそはみんなで飲みに行こうよ。奢るからさ」
「…ですから、申し訳ないですけど私そういうのは苦手で…。」
「息抜きは必要だよ〜」
裏方の手伝いをする若い女が珍しいのか、こんな誘いを受けることも度々だ。
兵士…もとい見習いの良し悪しは仕事の出来で決めてほしい。
私だって仕事は真面目に勤め上げたい。
自分が特別綺麗なわけでもことを分かっているから、若いだけで声をかけてくる人達はとても苦手だ。
特に、この人…レミさんだけはどんなに断っても行く先々で声を掛けてくる。
まとわりつくような視線に気付かないふりをするしかない。
本能的に、二人きりになるな、とどこかで危険信号が鳴る男だ。
仕事場でのいざこざは避けたいのに。
これだけ断っても意味がないのなら、一度エルヴィンに相談してみようかな。
二人きりでいると何をされるか分からない。
用事だけ済ませてすぐに戻ろう。
目的地に着き、卓上に資料を並べ終える。
扉は開いたままなのですぐに戻ろうとすると、後ろから肩に手を置かれた。
「…エマちゃんて、髪さらさらなんだね」
もう片方の手で髪を触られ、体中を何かが這うような、ぞわりとした感覚が襲う。
思わずカッとなって振り返った。
「…っ、あの、やめてください!」
「…何してる」
突然部屋の入口から低い声が響いて、
そちらに目を向けるとリヴァイが立っていた。
「リヴァイ…?」
「リ、リヴァイ兵長!?」
リヴァイの目線がちらりと私の肩に移動し、眉間の皺が更に濃くなった。
瞳の色も、濃い。
…ものすごく不機嫌のようだ。
私もレミさんも、そんな彼の雰囲気に威圧される。
「…放せ」
「…は?」
レミさんから間の抜けた声が出る。
身動きも出来ずに固まっていると、リヴァイは躊躇もせずにカツカツと靴を鳴らして近づいてきた。
「放せと言っている」
びくりとレミさんの手が私の肩から浮いた一瞬の隙に、リヴァイは私の肩に手を回してぐい、と引き寄せた。
「……っ!」
手には痛いくらいに力が込められていて、肩に彼の指が食い込むような気がした。
乱暴に扉の方までその状態で引っ張られるように歩くと、リヴァイは軽く呆気に取られている男を振り返った。
「二度とこいつに触れるなよ」
ばたん!と開いていた扉は強く閉められ、廊下に出てすぐに私の肩も解放された。
速度を緩めずに歩く彼につられて、私も追いつくように足早になる。
「リ、リヴァイ、ありがとう。」
「……」
「助かった」
リヴァイはまだ私の顔を見ようとはしない。
不機嫌そうな表情はそのままだ。
「…今度からはちゃんと言いに来い」
今度からは…?
あ、なにか問題があったらってことか。
「…分かった、気を付ける…」
彼の雰囲気に呑まれてそう返したものの、疑問が浮かぶ。
あれ?
でも、ちょっと待って。
今回はレミさんにつきまとわれていただけだ。
今後はこんな個人的な困りごとをリヴァイに一々言うわけにはいかない。
仮にも彼は兵士長なのだから、私の悩み事に付き合わせて面倒なんて掛けられない。
…自分の世話さえ出来ないなんて、思われたくない。
「リ、リヴァイ。
それは…仕事上問題があったらってことだよね?」
既に彼の歩くペースにはついていけず小走りで追いかけながら質問したので、声が上ずってしまった。