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気がつくと窓の外は暗くなり、時計の針は午前1時過ぎをさしていた。窓を開けていても室内はこもったような熱気に包まれている。
二人で扇風機の前で風を受けるけれど、僕たちはぴったりとくっついているので、暑いのにはかわりがなかった。
「こういう事したことなかったから、どうしていいか分かんなくてさ。きよ、ありがとな」
「……そうだなあ、僕はよく働いたよ。――なにかご褒美を頂戴な」
綺麗になった畳の部屋に二人でごろんと横になっている。肘をついて意地悪くにやりと笑う。
「ご、ご褒美って…なに、が欲しいんだよ」
「さあ、何をくれるの?」
にやにやと笑っていると、凛が覆い被さって来た。凛が僕の髪の毛を梳いたり、頬を優しく抓ったりする。されるがままになっていると、凛の真面目な色をした瞳と目が合う。
「きよ、」
「なんだい」
「おれ、その……ああ、もう! 察せよ……」
急に声を荒げて項垂れた。
今日の凛はどこかおかしかったので、もちろん僕は察している。何かを言いかけて、つぐまれる口も。こちらを見ては、わざとらしく逸らす目線も。
「何のことだ」
ふふん、と笑いながらとぼけて見せると、凛は困った様に息を吐く。
「意地悪だな。お前は――」
「ご褒美、くれよ」
ぐっと息をのんで覚悟を決めたらしい凛の顔が徐々に近づいて来る。触れるだけの優しい口づけ。僕が潰れてしまわない様に畳に腕を置いているけれど、それが震えているのが分かる。
「きよ、好きだ」
知っている、ずっと前から。
「僕もだよ。凛」
「触って、いい?」
こくりと頷くと、口づけをしながら凛の震える手がの僕の首筋を撫ぜる。柔らかな掌で体を触れられると体が熱くなった。
不慣れな手つきで、僕の上の服が脱がされる。
「白い」
凛は感嘆しながら、綺麗、といいながら体の隅々に口づけを落として行った。壊れ物を扱う様な優しい手つきで、凛は触れていく。
その行為は汚いものではなくて、どこまでも澄みきった、綺麗なものだった。
僕は嬉しいような、泣いてしまいたいような、複雑な、胸が締め付けられる思いだった。
「きよ、きよ」
何度も僕の名前を呼ぶその声が心地よくて、僕たちは何度もお互いの体温を、存在を確認し合った。
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