8
凛は毎日公園へ僕に会いに来た。たまに学校を休んで一日中一緒にいた。いつもひっついて一緒に居た。
幽霊の絵を描いてもらった事がある。それは黒くて、不気味で、おどろおどろしい物体だった。誰にも見えない物体が、彼の瞳にはこのように見える。彼を『変人』呼ばわりしてしまうのも、無理もない。自分が目で見て感じられる範囲がその人の全てなのだ。見えない者を理解するのは難しい。
いつもの様に公園で本を読んでいると、夕方頃に凛が走ってやって来た。
「最近は毎日学校に行っているみたいだな」
「友達っぽいのが、出来た、かも」
「そうか、良かったな」
「でも、一番の友達は……」
「ともだち?」
にやにやしながら凛の唇に指を這わすと、凛は照れてしまって顔を俯ける。
「うっせーきよ」
「可愛い」
「黙れ、クソ野郎」
学校で凛に友達が出来た。とても嬉しいことだけれど、少し寂しくも思う。毎日学校に行く様になり、以前より明るくなったように思う。たまに、泣いたりもするけれど。
「なあ、今日おれんち来いよ。母ちゃん今日帰って来ないって言ってた」
「良いのか?」
「おうよ、お前んちみたいに、綺麗じゃないけどな」
凛の家の中はゴミがあちらこちらに転がっていて、臭かった。臭いのもとは台所からで、長い間洗っていない容器に汚れがこびり付いていたり、腐った果物には虫がたかっていた。
台所の先にある8畳程の小さな部屋でこの二人は暮らしているらしかった。畳には布団が二人分敷いてあり、その周りを囲む様にペットボトルや、ゴミ袋が散乱している。
「人を呼ぶ家じゃあないな」
「ごめん、きよ。その――」
「片付けようか」
この惨状に凛もどうしたらいいのか、困っていたのかもしれない。そう言うと顔を輝かせた。
「明日、母さんの誕生日なんだ。なんか出来ないかと思って」
「喜ぶだろうね。最近、お母さんの機嫌は良いの?」
「おう。彼氏と上手く行ってるみたいだ」
「なら、良かったな」
僕は水回りを、凛は寝室を片付けた。腐った果物は捨てた。一瞬自分は何をやっているんだ、と 自分の状況に一瞬笑いそうになったけれど、凛のために手を動かした。
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