雪ぐ
20130402
「雪だ」
特に感情の籠らない台詞を放った彼は窓に近寄る。
彼の方から言葉を発するというのは珍しい事なので、私は少し嬉しくなる。
「初雪ですね。庭に出てみますか」
雪が物珍しいのか、額が触れる寸前まで顔を窓に近づけている。
なんだ、可愛らしい所もあるんだな。微笑ましく思う。
私の提案にこくりと頷いた彼の顔は、依然無表情であった。
背中と膝裏に手を回し、彼の体を抱き上げる。
華奢な体を支えるのはいつも通り簡単なことだった。
「寒くはないですか」
彼の部屋から程近いこの庭は、おそらく屋敷の中で一番美しい。
雪化粧も相俟って非日常的な風景を生み出していた。
それを無表情で眺める彼もまた非日常的に思える。
私の問いには応えずに、はらはらと舞踊る粉雪をただ見つめている。
「埃みたい」
彼は感想をそれだけ述べると目を閉じた。
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