翌日の昼休み。
廊下を歩いてると、前方に見えるのは愛しい美奈子の後ろ姿。
こっそり追って、ガバッと背後から抱き締めちゃおっかなー。
美奈子、絶対ビックリするよね。
真っ赤っかになって、ルカくんったら、もう!とか言うんだ。
それを想像するだけでも堪んなくて、ほころぶ口元を思わず押さえた。
美奈子はずんずん人気の無い裏庭に行ってしまう。
どこまで行くんだろ。
足音立てないよう気配を消しながら離れて尾行すると、美奈子の前に現れたのは、不二山だった。
「悪い!遅れた」
美奈子はすかさず自分の唇に人差し指を当て、不二山と木の陰に隠れた。
俺も遠くから二人が見える場所へ移動し、息をひそめた。
何すんのかな。
焦れながら見ていると、美奈子は真っ赤な顔しながらモジモジするだけで、なかなか口を開かない。
そんな美奈子の肩を、不二山の右手は馴れ馴れしくポンと触った。
何あいつ。
すると、まるでそれが合図みたく、美奈子は意を決したように口を開いた。
トマトみたく真っ赤な顔の美奈子を凝視してた不二山は、驚いた表情を見せている。
あの不二山が。
残念ながら、離れすぎて会話は全然わかんない。
俺に読唇術でもあればなんて思った。
不二山はまた美奈子の肩に馴れ馴れしく触る。
触んなって。
腹ん中グツグツしてくるんだけど。
真っ赤な顔のまんま、美奈子は自分の頬を触ったり、髪の毛を触ったり、指をこすり合わせてたり、仕草一つ一つ可愛い。
それを不二山だけに見せてんのがムカつく。
不二山は腕組みして何やら話し出した。
あいつ表情に出さねーから何喋ってんのかイマイチ判りづらいんだけど、美奈子は紅潮した頬を保ったまんま、うんうん頷いてじっと見つめている。
不二山を見る目が何だか色気まで含んでいるように感じ、心はますますかき乱され落ち着かない。
俺、美奈子のあんな顔見たことないんだけど…。
美奈子、不二山と何喋ってんの。
不二山は両手で美奈子の両肩を掴むと、少し後ろへグッと押したように見えた。
あいつ、押し倒すんじゃね?
思わず中腰になって出ていこうとしたら、すぐさまその手は離れ、美奈子の頭上へ移動する。
そして、柔らかい髪の毛をくしゃりと掻き回しただけだった。
ビビった…。一瞬マジに見えたんだけど。
美奈子は、ほっこり微笑みながら不二山にペコリと頭を下げた。
不二山が先に出て、走り去っていく。
美奈子はキョロキョロ周囲を見回しながら…、俺と目が合った。
「あ、ル、ルカくん…、い、今の…話…、もしかして…」
またまた真っ赤な顔して吃りまくっている。
「何の話?」
「な、なんでもないの」
美奈子は、ちっともなんでもないふうな表情をみせながら、そそくさと逃げ出してしまった。
…怪しい。