ぼんやりと外を見ながら涼む俺に今度は美奈子の方から近付いてきた。

「ちゃんと乾かさないと夏でも風邪ひいちゃうよ?」

俺の横までのそのそと移動し立ち膝をすると、肩からタオルを取りまだ水滴の落ちる髪を子供にするみたいに優しく拭いてくれる。

その時、海からの風が美奈子の髪をサラサラと攫ったと同時に甘い香りが俺の脳ミソをクラッと揺らした。

「オマエ、いい匂いがする」

見上げると美奈子が少し頬を赤らめて嬉しそうにふにゃりと笑う。
そんな顔されたらチューしたくなるだろ。

「シャンプーの香りかな?あのね、前に新名君に教えて貰ってね…」

ああ、ニーナにね…。
この匂いには誘われるけど、美奈子が他のヤローの名前を呼ぶのは正直面白くない。

「香りがいいだけじゃなくてね?髪もすごく…」

ニーナに教えてもらったシャンプーの話なんてどうでもいい。それよりも……。

(柔らかそう…)

俺の顔の前にはちょうど美奈子の胸がある。
 
残念ながら谷間は拝めないけど、小さすぎず、大きすぎず…丁度俺の手に収まりそうなそれにこのままパクッとかぶりつきたくてつい手が出そうになる。

(この前は胸すっ飛ばしてパンツの中触っちゃったからな。勿体無いことした。)

「あの…えっと……ルカくん、さ、触る?」

「……え?」

いいの?マジで?

思いがけない提案に美奈子を見上げると少し腰をかがめて頭を差し出してきた。

「……何?」

そのまま腕で胸寄せて谷間でも見せてくれるのかと思ったけど、一向にその気配はない。

「え?だからね、髪ツヤツヤだから…その…さ、触りたく…ない?」

……なんだ、髪の話か。

美奈子の体に伸ばしかけていた手をおずおずと引っ込めるとガクッとあからさまに肩を落とす。

「ルカくん?」

そうだよな。美奈子が自分から胸触らせてくれるはずがない。
でも「今日」だからやっぱりちょっと期待したんだよ。馬鹿だな俺。

「あ……、髪とかどうでもよかった?そ、そうだよね!変なこと言ってごめんね…」

項垂れる頭に美奈子の慌てた声が降ってくる。

チラっと顔を伺うと真っ赤になった頬を両手で押さえながら小さな声で「もう…どうしたらいいかわかんないよぉ」と呟き、眉尻を下げ、目にはほんのり涙を溜め、困り果てていた。

やばい、その顔。スイッチ入る。

そんな困った顔も俺を誘ってるってなんでわかんないんだろう。
美奈子は何も小細工なんてしなくていいのに。そこに居てくれるだけでいいのに。

そろそろ俺も限界。

俺は泣きそうな美奈子の髪に手を伸ばすと指でとかすように髪を掬い毛束にチュッと口づける。

「ほんとにツヤツヤでサラサラだ」

俺の突然の行動にびっくりしたのか、更に真っ赤になった美奈子を置いてベッドを後にした俺は電気を消してまたベッドへ。

「そろそろ寝よっか」

急に暗くなってまだ慣れない目には美奈子の表情は見えなかったけど、アイツが確かにピクリと体を緊張させたのはわかった。



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