ピタッと足を止めて、振り返った琉夏さんは超笑顔〜…………風みたいな?
やっぱり目が笑ってません。
「ニーナに聞きたい事あんの」
「聞きたいこと!?」
ジリジリ距離をつめてくる琉夏さん。後ずさりするオレ。
背中に壁がぶつかって、これ以上逃げられない。張り付けられた標本の虫状態。
ヌッと顔の横に腕が伸びてきて、壁と琉夏さんに挟まれた。
逃げらんねーじゃん!
「ねぇ、ニーナ」
「な、なんスか?」
「俺さ、気になる事あるんだよね」
「気になる事!?」
首を傾げた琉夏さんの左耳のピアスが揺れる。
もう顔には笑顔もなくて、鋭い目つきで睨みつけられる。
ガンつけパネェ!
マジ怖いんですけどー!
指輪んトコで殴られたらぜってぇ痛ぇってー!
それよりも、マジでこの人怒らせた理由がわかんねー!
うまく息も出来なくなって、酸素メーターは下がりっぱなし。酸欠状態で、喉はカラカラ。
「オマエさ、この前ここで美奈子と何してた?」
「うわ…って、はい!?」
首を竦めたトコで予想しなかった問い掛けに混乱する。
「一緒にいただろ?」
「…へっ!?美奈子さん!?」
―――――あ!
ここってこの前美奈子さんに相談受けた場所じゃん!
そういや男がその気になる方法聞かれて、口止めされたんだっけ。
「美奈子と何話したか吐けよ」
「いや〜…、それはちょっと…言えないみたいな〜アハハ…?」
なんもかんもアンタの為だって!
あとちょっと待てば分かるんだし、オレからは言えねーって!
「美奈子が怖がるからあんまり悪い事出来ないんだけど、バレなきゃいいよね。ね?ニーナ、どう思う?」
ニッコリ笑顔が嘘くせぇ!
これって充分悪い事だと思いますよ!?
立派な脅しでしょーが!
「…いや〜、やっぱホラ、暴力じゃ何も解決しねーし?」
「俺さ、あんまり気が長い方じゃないんだよね」
言った方が楽になれるんじゃね?
けど、あんだけ頑張ってたのオレがぶち壊す訳にはいかねーし!
オレ超いい奴じゃね?
「…言えないッス」
「ごー」
「え?」
「よーん」
ちょっ!
コレなんのカウントダウン!?
「さーん」
琉夏さんは持ってたコーラの缶を眺めて、オレに鋭い視線を戻して声も低くなってくる。
「にーぃ」
ちょっと!
それで殴る気ッスか!?
パネェ!
壁についてた左手にコーラの缶を持ち替えると、親指の指輪が、缶に触れてカツっと鈍い音をさせた。
「いー…」
「わーっ!言いますー!言います!マジで!」
「そ?」
ニッコリ笑顔になった琉夏さん。
もう…悪い奴でもいい。
ごめん美奈子さん…オレ自分の身が大事です。