DAY-1
「おい、そこにあるカレンダー、破っとけ。5月のまんまじゃねーかよ」
俺がダイナーを横切ると、コウのヤツ、命令してきた。
「イヤだね。気づいたヤツがやれば」
「オマエ、すぐ傍にあんじゃねぇか。やれよ、そんくれぇよ」
「コウに命令されんのがイヤだ。美奈子に言われたらやってもいいけど。
…美奈子の真似してよ。そしたら破ってあげてもいい」
「バカか…テメェ…」
コウは椅子を蹴るようにして立ち上がり、ズカズカこっちへ向かってきた。
「お、やる気?いいよ、受けてたとうじゃん」
「どけ」
コウは肩で俺を押しのけると、カレンダーを力任せに破り取った。
「あっ」
「あっ」
コウの手にギュッと掴まれているのは、2枚の紙。
カレンダーは今月すっ飛ばして、7月を迎えてしまった。
「あーあ、怒りに任せてやるからー」
「言うこと聞かねーオマエが悪いんだろうが」
「でも、やったのはコウじゃん。あー、6月さんさよーなら」
「…セロハンテープねぇか。カレンダーこれしかねーんだよ」
「さあ?」
「チッ、切らしてんな…」
カレンダーを見たら、7月1日はグルグル大きく丸で囲われ、アピールしまくっている。
「コウ、この日可愛い弟の誕生日だから、よろしく」
「何がよろしくだ。よろしくしねぇ、バカルカ」
コウがチャリンとバイクの鍵を取った。
「何、セロハンテープ買いに行ってくんの?」
「うるせぇ」
せっかく聞いてあげたのに、コウはバンッと乱暴にドアを閉めてった。
短気だねぇ…。
俺はダイナーのカウンターに脚を乗せて、乱雑に破りとられた跡が痛々しいカレンダーを眺めた。
…誕生日か。美奈子、何かくれっかな。
去年は手作りケーキ貰ったけど。美味かったな。
今年は…、美奈子喰いたい。
ホワンとした顔の美奈子を頭に描く。
うわ、すげー可愛いんだけど。
あー、美奈子マジ喰いたい。
美奈子が私を食べてって来てくれりゃあいいのに。
でも、ちょっと手が触れただけで真っ赤っかになるから、無理かな。
俺から襲わないと絶対無理だろーなー。
俺はコンクリート打ちっぱなしの天井を仰いで、ふうと溜め息ついた。