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なんでもない事なんでしょ?

ゼンになんとなく連絡をしづらくなってから、ひと月が経とうとしていた。
あんなに暑かったうっとうしい日々は、いつのまにか秋をまとって過ぎてゆく。
基本的に連絡は私からしていたし、ゼンは私にわざわざ居場所を聞かなくたってどこからともなく現れたから、ひと月も私の前に姿を見せないのは意図的なものなのだろう。

ゼンにはしばらく会っていないのに、頭の中にはいつもゼンの言葉がぐるぐると回っていた。

「そんな嫌なら反撃すりゃあいいじゃねーか。」

簡単そうに言ってくれるけど、それができたらこんなことになってない。
ていうか今更反撃なんてしたら私の立場はどうなる。
いじめられながらも少しずつ築いてきた私の地位とか、昇進できそうなこの雰囲気とか。
とにかく仕事はちゃんとやっているんだから、このまま昇進しちゃえばいいんだ。
偉くなれば、こんな悩みも解消されるだろう。
ゼンには思いつかない方法なんだろうけど。



今すぐには、そりゃあまだ2年目のペーペーなんだから無理かもしれないけど、私は優秀なんだから、いつか偉くなれると思う。
私がこなした仕事を、先輩に横取りされているけれど、きっと上司もそのうちこの不正に気がつくはず。
そもそもこんな幼稚なこと、よく1年も続けられていると思うけど、そろそろみんな飽きてきて、真面目に仕事に取り組むだろう。
私からなにかしなくたって、この会社の人たちは一応有名企業の一員なんだし、いつか、きっとこんなくだらないことはやめようと思い至るだろう。

そう思って、またしばらく経った。
秋は深まるばかりで、肌寒くなってきていた。
私へのいじめは、1年と半年過ぎても通常業務と一緒に行なわれている。
最近気がついたことがある。
このいじめとかいうやつは、彼らにとってもはや習慣となっていて、これがおかしいことだなんて思う人はいないんだってこと。
みんなもう感覚が麻痺していて、こいつはいじめてもやり返してこないし、ひどい扱いをしてもいい奴なんだって思われているということ。
それで、私はそれを、もういいや、と思い始めていること。

その度に、ゼンの言葉がフラッシュバックする。

「反撃すりゃあ」

いいってもんじゃないなんて、思っていた時もあった。
今は、その気力もない。
仕事に忙殺されている時に、反撃なんて面倒臭いこと。
そう思って、仕事をこなして、社員の陰湿さに苛立って、でもなにもしないしする暇ないし、とか思って。
それを繰り返して、あの結論に至った。
私がこうして悩んでいたり、つらく思っている間も、あの人たちはなんにも考えていない。
私のことなんて脳みその中にない。

ゼンと連絡を取らなくなってから、きっと私はゼンの頭の中にもいなくなったんじゃないかと思っている。
私の数少ない、親しい人と呼べる存在だったのに、心ない言葉で傷つけた。
いつでも、お前は悪くないって言って、味方してくれていたのに。
戦えって、奮い立たせてくれていたのに。
突き放して傷つけた。

戦おうと思ったのは、上司に呼び出されて、私が以前直した書類を、先輩が修正したものだと注意された時。
本当にダメなんだ、と気がついた。
このままでは、私は会社に殺されてしまうと思った。
黙って頭を下げたけど、この時私は決めた。
戦おう。

ゼンが正しかった。
ゼンは、子供っぽいし世話が焼けるけど、たまに正しいことを言う。
自分でも気がつかない核心をついたことを言う。
いつだったか、「ずっと見てたいんだよな」と言ってくれたゼンのことを頭に浮かべた。
じゃあ、私はゼンがいなくても戦えるってとこ、見ててほしい。
ゼンは私のことをずっと見ていたいと思うのなら、私はゼンにいつも見ててほしい。
簡単な言葉で表せないよくわからない気持ちだけど、一番ふさわしいのはそれだった。

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