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[余談]

「なん、で、こんなことに…。」

私は今、大の男を一人で家まで送り届けている。
どうして私はいつもいつもこう、面倒なことを押し付けられるんだろう。
そういう星の元に生まれたから、なんて一言で片付けたくないくらい、災難が降りかかる。
一体何事なのかなんて、私のほうが知りたいよ。



ゼンから連絡が途絶えて、2週間ほどが経っていた。
心ないことを言って傷つけたのはたしかだけど、急に音信不通にならなくても、なんて初めは思っていた。
けれど、2週間も音沙汰なしだとさすがに心配にもなってくる。
それに、自分が悪かったと思っているから謝りたい、とも。

そうは思っても、業務といじめに追われてそれどころではない。
それでもなんとか休みはちゃんと休みたい、と思って、ようやく迎えた日曜日。
よし、もうこっちからゼンに連絡して、仲直りしよう。
1日悩んでそう決心したのはもう夕方になっていた。

夏真っ盛りの暑い1日だった。
携帯を開いてLINEを、と思ったら、同時に久しぶりに名前を見る人物から連絡が来た。

「はい、もしもし。」

『おー、昴!わりぃ、ちょっと駅前の居酒屋来てくれねえかな。お前んち近かったよな?あー、同僚が、潰れちまってよぉ。ほんとわりぃ、手伝ってくんね?』

ディスプレイに現れた「Tsukishima」という人物は、よくしゃべる。
インターンと研修の時に(一応)お世話になったその先輩は、見るからに軽薄そうで、苦手な部類だった。

「はあ。急になんなんですか。私の予定無視ですか。」

『あ、予定あったか?だめそう?』

言ってみて、別に予定はないのだと気がついた。
ゼンに連絡なら、来週でも別に大丈夫かな。

「ないですけど。」

『じゃあ頼む!ごめんな!』

そう言われて、切れた。
本当に自分勝手な人だ。
でも、見るからに女好きのしそうな感じなのに、私にはすごくあっさりな人だ。
たまに連絡をよこすけど、男友達に対するような接し方で、別にこれといって口説かれたとかセクハラされたとかはない。
そう考えると、経理部の私にちょっかいをかけてくる人たちより随分マシか。



「うわあ。」

「あからさまに嫌そうな顔すんなって。一杯飲むか?」

「結構です。これからこの人運ぶんですよね。」

駅前の居酒屋に着くと、カウンター席で突っ伏している男性と、笑顔の月島さんがいた。
男性の周りには大量の空きグラスが置いてある。
いや、店側も下げろよ。

「そーそー、わりぃなあ。おれこのあと女の子と予定あんだよ。」

「えっ、私一人で運ぶんですか?死にますよ。」

「外に車あるだろ。そこまで運ぶから、あとはカーナビに入ってる住所まで頼むよ。」

呼び出されてここまで理不尽な頼みごとをされるとは思っていなかった。
ていうか運転させようとさせてたくせに一杯勧めたのか…。

「月島さんからの呼び出しは、金輪際受けないことにします。」

「そう言うなって!また今度埋め合わせすっからさ。借り作っときゃこの先い〜いことあるかもよ?」

「うわ、キモいです。」

「ひでえな!」

こういう掛け合い、懐かしい。
今まではそれをゼンとしていたはずなのにな。

「な、昴、友だちいねぇんだからサ。おれくらい、大事にしといたほうがいいぜ?」

「心配しなくても、月島さんは友だちじゃないんで。」

軽口をたたいたけど、こういう関係が友だちなのだとしたら、私とゼンは友だちのはずだ。
だから今この状態は、もしかして友だちとケンカしているということなのだろうか。
そんなの、遠い昔すぎて仲直りの仕方を忘れてしまった。
そもそも、学生時代に大して仲の良い友人なんていなかったから、本気でケンカをしたのは小学生以来かもしれない。
マジか、私。

「うし、じゃ、あとは頼んだぜ。」

なんて考えているうちに、あっという間に同僚とやらを後部座席に積み込み、カーナビで「自宅」を設定した月島さんはさっさと去っていった。

「嘘でしょ。これで事故ったらどう責任取ればいいのよ。」

後ろの男性はぐーすか寝こけている。
うつ伏せで顔も見えないけど、うつ伏せって酔っ払いに一番ダメな体勢じゃないの…?

こうしてこの見ず知らずの男性の自宅アパートにやっとこさ車を停め、私よりずっと大きくて重たい体に腕を回して運ぶことになったのだった。

エレベーターまであと少し。
くそっ、月島さんの電話なんて無視してゼンにさっさと連絡してればよかった。
そうしたらこんなに面倒なことにも巻き込まれず、惨めな思いも思い出さなかったのに。
でも、連絡していたからといって、ゼンは許してくれていただろうか。
ゼンならきっと、水に流してくれる、なんて甘い考えを持っている時点で、私はもう随分と彼を信頼しているらしい。

「ん…。」

男性が目を覚ましたようだ。
助かった。
これ以上は私の腰が死んでしまう。
あとは自分で歩いてもらおう。

「はづき…。」

男性がそう口走ったように聞こえたが、もごもご言っていてよく分からない。

たしか、車に乗り込む前に月島さんが言っていた。

「あんま詳しく聞いてねえけど、こいつ、女振ったばっかなんだよ。優しくしてやって。あと、名前は『倉敷』な。部屋番は302。」

振った側だというのに、こっちが落ち込んでいるように見えるのはなんなのだろう。
やっぱり自力で歩く気がなさそうなので、声をかけてみた。

「ちょっと、倉敷さん。まだ19時ですよ。しっかりしてくださいって。」

その時、上から誰かの視線を感じた。
ふとアパートを見上げたけど、そこには誰もいない。
気配を感じたのに、一体なんだったのだろう。

すると、ついに意識が浮上したらしい倉敷さんが、顔を覆いながらぶつぶつつぶやいた。

「忍に、しこたま飲まされた…。あーー、あいつひさびさに早く仕事終わったからって、くそっ。頭いてえ。」

「なんでもいいですけど、自分で立ってくださいよ。ほら、エレベーター、乗りますよ。」

なぜだかわからないけど、倉敷さんが一瞬すごくつらそうな顔をしたような気がした。
それが頭痛からくるものなのか、それとも別の何かからくるものなのかはわからない。
でも、月島さんの言う通り、少し優しくしてあげたほうがいいかな、と思った。

エレベーターに先に乗り込んだ倉敷さんは、一緒に乗ろうとした私に手のひらを向けて、拒否の仕草をした。

「わりぃな、こんなとこまで来さして。運転も、迷惑かけて悪かった。忍にはおれから言っとくから。醜態さらして悪い。」

私を誰かと勘違いしているのかと思うほどフランクな話し方でそう言って、扉は閉まった。
終始、顔面をもう片方の手のひらで覆っていたし、相当酒が回っているようだった。
まあ、月島さんよりは幾分かマシな感じの人だったから、別にいいけど。

それより、上から感じた視線はなんだったのか気になる。
でも、そんなことよりも自宅からかなり離れたところで一人置き去りにされた私は、これからどう帰るかを考えないといけない。
はあ、意外とみんな悩んでいるのかもな。

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