「おーい、翔子ー。命令違反が出た」

急に扉を開けてはそんな事をいうのは一応私と優に優しくしてくださった一瀬グレンだ。吸血鬼の世界から逃げて、人間世界へ戻ってきて直ぐに私は鬼呪の掛かった武器を貰ったものの優はそこまで行っていない。と、言うか放置されている。

この四年間、私は(自分で言うのもなんだが)力をつけて吸血鬼殲滅部隊“月鬼ノ組”に入ることができ今では自分の隊を持ち部隊長を務めている。

んで、私はグレンの命令により命令違反を犯したものなどの管理やら処分やらも仕事になってしまっている。その所為で優とは滅多なことじゃ会えないし、私は今にも心臓が潰れて死にそうになる。

「命令違反、誰ですか」
「お前が処分係りに就いたのはつい先日だから、知らないか」

勿体ぶるな。さっさと言わないか。確かに先日この仕事についたばかりだが、命令違反するものなんて滅多にいない。なんのための仕事なのかよく分からん。

「で?」
「命令違反は百夜優一郎だ」

がたん、と椅子が倒れてデスクの上のお茶が床に落ちた。グレンは驚いて、私は頭の中が白くなった。追い討ちをかけるように「また、だ」と言い放つ。
どうして命令違反?なんで命令違反なの?と質問攻めに合わせれば返ってきた答えは「強調性の無さ」だと。優は確かに昔からちょっと自分勝手だったけど、仲間のためにしっかりやれる子だから、と処分を見送りにしようとしたら頭を叩かれた。暴力で暮人の方に訴えてやろうか。なんて、私もあそこ嫌いだからな。

「おいおい、お前なあ。甘やかすんじゃねーよ」
「良いじゃないか。きっとあれ、勝手に鬼退治したとかそこらなんだろ?」
「敬語使え、敬語。謹慎処分って書いとけ」
「やだ。」
「ふざけんなよお前」

ぎゃあぎゃあと言い争っているところでちょうど小百合が現れたので言い争いが終わった。謹慎処分なんて書きたくないのに、優ごめんね。お姉ちゃんを許して、と心で言いながらそこに雑な字で謹慎処分と書いておいた。
ああ、罪悪感でいっぱいだ。もう死んでいいかな?

「あ、そうだ。優んとこに監視感を入れといたんだ」
「はあ?優になんてことしてくれんのよ!」
「ちゃんと手紙もプレゼントしておいた」
「死になさい!さっさと見せろその手紙!」
「あっ、グレン様、翔子ちゃん!」

小百合の制止の声が聞こえたけどそんなことしてられるわけ無い。優に監視感なんて必要ないのに勝手なことしやがって。それに手紙?ふざけんなよお前。なんで私に手紙を書かせてくれなかったのよ!
服の隙間から覗いた白い紙を取り出してざっと目を通すと優を冒涜するような、馬鹿にするような言葉が綴られていて私のイライラは募るばかりだった。どうして私を監視役にしてくれなかったの?尋ねればさっきまでの雰囲気とはうって変わりグレンは真剣な顔をして私の質問に答えてくれた。

「お前と優は他の家族を皆殺しにされた。お前はあいつとは違って大人で理解力があるが優は違う。他者と触れ合うことを恐れている。仲間を失うのを恐れているからだ。そこにお前を監視役に連れていったところであいつは強くなれない。お前は強い。護られなくても護ることが出来る。優は違う。あいつは復讐のためだけに部隊に入りたがる」
「何が言いたい」
「お前がいれば優は怪我なんてしないだろうが、護られてばかりじゃ意味がねえ。護れるようにならなきゃ意味が無い」
「……優のことは私が護れてればいい。あの子は、あの子はっ!」

だからお前は甘いんだよ、とごつんと殴られた。小百合は心配してくれた。小百合はやっぱり優しい。こんないい子、どこで間違えてグレンを好きになってしまったんだ。グレンに魅力がないとは言わないが優をいじめたりいじったりする内は私はあいつを絶対に好きにならんぞ。なんだあいつ。優がもし怪我をしたらどうするんだ。

小百合はグレンに呼ばれわたしの頭を軽く摩ってからグレンの元に行ってしまった。広い部屋に座り込んで項垂れた。くっそ、私も優の所に行きたい。優、会いたいよ。


部屋から出たらそこには深夜が立っていた。四年前にグレンの横に立っていた人で、グレンを通じて仲良くなった。よく会い話しをする。今ではちゃんと友人関係が成り立っているし何ともないんだけれど彼の兄(義理のだが)は私を柊家に入れようとしているらしく注意しなくてはならない。深夜はグレンの友人なので気にすることもない。

「何の用?グレンなら居ないけど」
「あ、そうそう。えっとね、今からお茶しない?」

僕は思い切って翔子を誘ってみた。弟思いのお姉ちゃんで百夜の生き残り。初めて見た時になんとなく湧いた感情に僕は呑まれて恋だと知った。高校の時に許嫁である真昼がいたけれど残念ながらお互いにお互いをよく思っていなかった。向こうは嫌がっていたし、僕は真昼が嫌いだった。はっきり言ってあれが許嫁とか絶望。そのまま恋なんてしないまま、世界は滅亡。
吸血鬼の世界から逃げてきたのは百夜の二人の生き残り。初めてあったときは彼女が16歳の時だった。赤い目に紺の長い髪。その時はびっくりした。まさか軍管理下でも最悪と呼ばれた鬼に手を出したのだから。手を出したものは最後鬼になって殺されるっていう。だけど、彼女は手にし自分の鬼として契約した。

可笑しかったのが直ぐに具現化させられていたし、憑依型にも関わらず特殊能力が使えたし、見たことも聞いたこともない能力。僕だってグレンだって驚いていた。暮人兄さんに至っては彼女を手にするためになんでもすると言っていた。僕は彼女の戦い方も、彼女の性格も、容姿も全部愛せたし愛した。真昼とは全く違う。同じように頭が良くて凄いのだけど真昼なんかと、一緒に出来ないくらい僕を強くひきつけた。

その時に警報がなる。第二渋谷高校で吸血鬼が現れたと。翔子は「優!」と叫んで走っていってしまった。そうか、第二渋谷高校には彼女の弟がいるのか。でも、僕は行かなくてもいいのかな、なんて思いつつも彼女の事を追いかけた。


第二渋谷高校についたとき、吸血鬼の下に見覚えのある黒髪と聞き覚えのある声がした。優が襲われてる?ふざけないで。だから嫌だったのよ。四年間も私の目下に置かないで放置しておくから。私はそのまま大和を呼び出そうとしたけれどグレンに押されそれは出来なかった。
吸血鬼を殺したのはグレン。優、と私はそのまま優に近付こうとグレンの横を通り抜け用とした時に腕を引っ張られグレンの胸にそのままダイブした。うわあ、最悪。

「おまっ!姉ちゃんを離せよ!それにいい加減俺を月鬼ノ組に入れろよ!」
「やだね。翔子は俺の部下だし、チームワーク出来ない奴は嫌いだし」
「できてない張本人が何をいうか」
「ほんとですよー。翔子さんも言ってるじゃないですかあ」
「シノア黙れ。翔子後で俺の部屋に来い。とにかくシノアに伝言させた通りだ。友達を作れなきゃ」

とグレンがいいかけたところで半ばヤケになって優は抵抗するように声を荒らげた、ところで優に抱き着いたひょろい男の子。優は嫌がって、その男の子は泣いていた。友達、かな。そう思った時に優の口から脱臼、と言う言葉が聞こえた。え?嘘でしょ。私はグレンのことを突き飛ばして優に近寄った。優、大丈夫?私の声は優には聞こえていないようだ。眠ってるのだから。

きっと、私と同じように見ているのだろう。昔の家族、私たちの家族が笑って応援してくれている夢を。私は静かに優を抱きしめた。貴方には無理をして欲しくないのに、きっと、無理をして走っていくのだろうから。



病室で優は空に手を伸ばしていた。涙を流しているのを見るとやはり、と思ってしまう。優に友人が出来たので今日付けで吸血鬼殲滅部隊に配属されるのだ。私は彼のチームではないけれどグレンに直々に私の隊は優の隊を護る隊としてくれるよう頼んだ。私の隊は別にいいよー、と軽く答えてくれたのでよかった。

お前がしたいならそうすればいい。何かあったら俺がお前を護る、とグレンは私の頭をポンポンと撫でてくれた。