あのあと私はグレンに連れて行かれた。優と離されて一週間。一週間でさえも長く感じた。唯一の家族。離したくないのに離されたのだから許せなかった。最初は悪態をついては困らせていたけれど、あの少年のためにやれと言われれば断ることはしなかったのだ。優のためならやってやろうじゃないか。

一日目に私はグレンとともに修行なるものをしていたのだ。強くなるためには鬼呪のかかった武器が必要だという。ならそれを得るために、優を護れるなら。もともと私は素材、自分で言うといい気分ではないな、が良かったらしく直ぐに平気になった。最初は眩暈がしてグレンにいろいろ言われていたものの二回目には完全に抵抗できるようになった。借りた武器を使ってグレンを傷一つ付けてみればグレンはこれなら平気だとすぐに鬼呪のかかった武器を用意してやると約束してくれた。早く寝ろと言うのは命令だったらしい。

目を閉じるだけでいつもあの光景が思い浮かんだ。四年前の景色。ミカと優が私の両手を握っていてにこにこわらっているのと、不愛想にしているのと。後ろからは姉大好き、と笑って抱き付いてくる子供たちの声。頭を撫でて私も大好きだよ、といえば満面の笑みを浮かべていたのだ。

大切な 友達 仲間 家族の笑顔

それだけだったらどれだけ良かったのか。けれど、その家族を吸血鬼に殺される光景。

優でさえも私の傍からいなくなる夢。悪夢だった。周りは赤で染まっていて一人佇んでいる。ミカと優がはやく逃げてと言っても、私はそこから動くことさえもできなかった。それに噛みつく吸血鬼たち。

「いやあああああああああああああああっ!!!!!!」

叫んで目を開ければ大丈夫かと覗き込んだ男、グレン。手袋を取って、ベッドに横になる私の頬を優しく撫でてくれた。髪の毛をかき分けて涙を流した瞳にちゅ、とキスを落としてくれた。お前に無理はさせたくはない、けれど、と言葉を濁した。優のためなら我慢できる、と彼の目をしっかり見たらふっと笑って抱き締めてくれた。お前は俺のものなんだから、と何というか気持ち悪い言葉を残して。けれど、いやではなかった。嬉しかったのだ素直に。

二日目。鬼呪のかかった武器を一緒に見るということで彼から離れないで探しているとふと目についたのがただの黒い棒。まるで隠されているように置いてあった。私にはそれが真っ赤に光っているように見えてそれに手を伸ばした。私はこれがいい、といった瞬間にグレンがだめだと叫んだ。でも、遅かったのだ。視界が一瞬にして黒く染まり、次には白い世界にかわった。

翔子が禁断に手を出した。あれは隠していたはずなのに、あれに吸い込まれるように手を伸ばした。あれに手を出して鬼にならなかった者はいなかった。だめだ、俺の、俺の翔子が。急いで誰かを呼ばなくてはならない。けれど柊家を呼べるものか。第二の真昼なんて呼ばれて狙われているのだ。助け何て呼べるはずがない。けれど、深夜なら、真昼のことを上辺で好きって言ってるだけで本気じゃなかった。あいつなら助けてくれるかもしれないと俺は急いで深夜を呼び出した。こいつは俺の大事な人だ。真昼には謝らなくちゃならない。お前を愛し続けることはできなかったよ。

何処此処とまではならなかった。自分で手を伸ばしたのだ。その白い空間にぽつりとある黒い物体。それに近づかなければ始まらない。私は距離を詰めた。その物体は鬼らしい。角が生えていたからすぐにわかった。

「ん?お前あれか、新しいやつか。やめとけ、今なら逃がしてやる。鬼になりたくないだろ」
「一番強いのは君だと思うから私は逃げない。君の力を手に入れる」
「馬鹿言うな。俺に手を出した奴は全員鬼になったんだ!!」
「だからなんだ。私は例外かもしれないぞ。力を貸してもらおうか、えっと、名前…」
「名前はない」

そっぽを向いた姿が優にそっくりでぷ、と吹いてしまった。何笑ってんだよ、と頬を膨らましたのがまさしくそっくりだ。力を貸してもらおうか、と言ったら彼は直ぐに姿を変えた。俺を倒してみろ、と。望むところじゃないか。彼は、悲しいことにミカの姿になったのだ。いや、それだけじゃなくて、優の姿にも茜の姿にもなったのだ。止めて、とあのころ見たく弱弱しくなっていいのか。そんなわけない!

「姉、会いたかったよ」

彼はミカではないことくらいわかっててもあれはミカだと錯覚に陥った。茜も、優も、みんな本物なんだ。生きていたんだね、みんな。私も会いたかったと呟けば僕たちは死んだんだ、と言われた。違う、違くない。違う違う違う違う。違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違くない。

「姉は逃げたんだよね。優ちゃんは復讐する気でいっぱいなのに、姉は違うんだ?」
「ちがっ、違うの、ミカ!」
「違わないでしょ姉。嘘言わないで。僕の為に復讐して。僕たちの為に復讐してくれるんだよね?」
「違う!!!ミカはそんなこと望んでない!!私にはわかるから、私の大事なミカをそんな風にしないでよ!!!」

叫んだ。するとパキン、と世界が割れるように何かが崩れた。

「すごいね、打ち破ったよ。珍しいなあ、打ち破る人は少なくないけどね、僕が認めなかったから力に気圧されて負けたんだよ。そして鬼になった。けど、きみは違うね。僕に名前を付けて。君の力になってあげる」

貴方の名前?大和、大和優美なんてどうかな。怯える調子で彼に尋ねると彼はなんでと理由を求めてきた。理由なんて特にないのに。強いて言うなれば弟二人の名前を入れたかった、から。『優』一郎と『ミ』カエラ。ミは美しいに変えただけ。力をかそう。大和は目を見開いた。私と同じ血のような赤色。

弟を愛した滅びの女神よ。我と同じ血を持つ瞳よ。濃く光を包め淡い色を有する藍よ。貴様に我の力を与えよう。

赤い瞳が混ざりあった。気付けばそこには私を覗き込んでいるグレンと知らない白髪の、銀髪か?男性がいた。翔子と抱きしめてくれた際に、銀髪の男性を指さした。あれ、誰?と。あれは、あー、気にすんな。そう言ってグレンはその銀髪の男性を除けた。

三日目。なんか実験室のようなところに連れてこられた。良く分からないけれど検査をするだけだというグレンを信じないわけにも行かなくてそのまま検査を受けた。目が覚めた頃には夜中だった。その間の記憶がなくて、どんな検査をしていたのかわからなかった。加えて検査途中で寝ちゃってそのまま爆睡とは疲れていたんだろうな。嫌な予感がしたけれどそれをかき消すように首を振った。

四日目。グレンと大喧嘩した。優に会いたいと言ったらダメと言われてそれで喧嘩したので大和の力を試したいとも思ったのでそのまま吹っ飛ばした。ん?吹っ飛ばした?やばい、と思って彼から逃げる途中で誰かに腕を掴まれた。な、なに?その人の会議室に連れてこられた。そこには一昨日見かけた銀髪の男性がいた。会釈だけして向き直ると私を連れてきた男性は名を名乗った。そいつは柊暮人というらしい。知らんがな。銀髪は柊深夜らしい。ほんと知らんがな。

「貴様、黒鬼を手にしたな。貴様の力を貸してもらいたい。柊家に来るといい」
「結構です。遠慮します。さような、っ!危ないじゃないか!」

飛んできた物をよけて柊暮人を見つめるとふむ、と唸られた。意味がわからない。けれど帰す気は無いらしいので実力行使に移ろうか。大和!と叫べばいつもなにか仲良くなった大和が、現れる。昨日の夜に本を読んでいたらいつの間にか鬼を出すこともできて、特別な能力があるから使わせてあげるということを大和から聞いた。形式変化、と呟けばパイプが鎌に変化する。いきなり攻撃範囲が変わると気持ち悪い。でりゃ、と振り回したけれど、自分でも分かってた。全然扱えてないじゃないのー!

「それが、それの本来の力か。翔子」
「なに?(いきなり名前呼びか)」
「まだ泳がせてやろう。いつか貴様を捕まえてやる」
「やなこった。死ね」

じゃあ、行こうか。そうですね。暮人の顔を睨んだまま部屋を出たあとにハッとした。お前も柊家の人間!と、けれど彼は大きな溜息をついて言った。ほんと僕あそこ嫌だ。柊家を嫌う発言。確かにグレンと一緒にいたくらいだから仲がいいのかもしれない。

「深夜、だったよね。柊家の人間っぽくない」
「僕今二十歳。君十六歳だよね?もう少し敬意を持ったら?」
「柊様申し訳ありませんでした。私目の不躾な発言お許しくださいませ」
「ごめん、やめて。僕のことは深夜でいいから僕も君のことは翔子と呼ぶよ」

五日目。柊深夜、深夜と話していたらグレンが驚いていた。そして、深夜を連れていきなんか話しているうちにどこかに行こうとしたら腕を掴まれた。お前は俺の物だよな?とグレンに聞かれて私は物じゃない、と返したら深夜は大爆笑していた。グレンの派閥ではあるけれど、ものではない。私は優のものなのだ。優に合わせろこの野郎。

六日目。深夜と異様に仲良くなった。自主練習に、力を貸してくれてり物を買ってくれたり、仲良くなったことをグレンに告げればドアをあけてどこかに走っていった。一晩中帰ってこなかったけど平気だろと思って寝た。

七日目。優に会わせろと言ったら明日合わせてくれるそうだ。良かったあ、一週間は長いから。彼も彼なりに頑張っているのだろう。私はそれを知っている。優が頑張り屋さんなことを。


「優!会いたかった!」
「姉ちゃん、一週間ぶり!!」

正確にはミカたちが死んで、私たちが逃げ出して一週間。優に鬼呪装備のことを話すと目をキラキラとさせていたのでいろいろと話してあげた。たまにぎゅーって抱きしめてあげないとと思ったけれど優から抱きついてくるので可愛い。




「なあ、グレン。あれが弟?」
「おい深夜。あれは俺の翔子だ。」
「いろいろ調べてみたけどさ、グレンには真昼がいるでしょ?僕なんて無理やりだったし真昼はいいこだったけどタイプじゃなかったし。翔子はちょうだいよ」
「ざけんな。」

ぐいっと引っ張られた。ああっ!優ー!離せよ、とグレンの腕を振り解こうとしても力では敵わないらしい。優、もっと話したいんだけど、と言っても聞いてくれなかった。でも、すぐ会えると言われたのでしぶしぶ頷いた。またね、優。グレンに言って優の近くに言って額にキスをした。ちゃんと寝なさいねー、とにやりと言えばわかってる!と真っ赤になっていた。優はやっぱり可愛いなあ。