ある日突然、なんの突拍子も無く未知のウイルスによって世界は滅びたのだという

生き残ったのは子供だけ 大人など生きてはいなかったのだ

そしてその子供達は地の底深くから現れた吸血鬼たちに支配された





「翔子姉!ミカ!これ見てみろよ!」

地下都市サングィネム。そこに少年の声が響いたのだ。その少年は夜を歩く者の手記、と書かれた本を抱きながらページを指さした。

「吸血鬼ども 頭破壊されると死ぬらしいぞ?」

その少年の名は百夜優一郎という。黒色の髪に翡翠の瞳を持った少年。吸血鬼の家畜となることを嫌がり、抵抗している少年であった。

「……ちょっと、考え事してるんではなしかけないでくださーい」

呆れるような溜息をついて青の瞳を閉じた少年は百夜ミカエラという。賢く、ここの生活を有意義に過ごせるように考えている少年。

「優もミカも相変わらず元気だね」

優しく笑ったのは百夜翔子。二人の義理の兄であり百夜孤児院の最年長の女の子。現在は十六歳である。吸血鬼への恨みはあるものの頭を使いいつかここから離れられることを望んでいる。

あと、と言葉を並べた百夜優一郎は吸血鬼の退治方法を口にするがミカエラは興味がないらしくつまらなそうに興味ナッシングだと呟いた。ミカエラは優一郎に何故そんなことを調べているのかと問えば吸血鬼をぶっ殺すためだという。

「優、そんなの難しいんじゃないの」
「アホ発言。人間が吸血鬼より強くなれるわけないじゃん」
「んなのやってみなきゃわかんねぇだろ!?」

ミカエラは翔子を見つめて姉もそう思うよね?と同意を求めたが優一郎も負けてはいられないらしく姉ちゃんだって吸血鬼をぶっ殺したいよな、と同じように同意を求めた。二人は翔子のことを尊敬し愛していたのだ。味方につけたい気持ちがあふれていた。

「うーん、本には身体能力は七分の一って書いてあるね」
「姉ちゃん、そんなの関係ない!七倍以上強くなれば……っ!」
「いっ、た」
「う、翔子、ねぇ」

ぷすりと首に刺さった針に痛みを感じた。ゴポリと音を立てた容器の中には赤い液体、血が注ぎ込まれていた。うわあ、いつ見ても気分いい物じゃない、と翔子はくらくらしている頭の中で考えていた。


「くっそー!もう我慢できねええ!痛えし!ふらふらするし!姉ちゃんに痛い思いさせるし!家畜を見るような目が気に食わない!だから姉ちゃん、ミカ!革命起こそうぜ!三人で強くなって吸血鬼の女王殺して、人間の王国作って姉ちゃんが王女様で俺が姉ちゃんの夫!」
「頭悪そうな計画……夢見すぎだし、翔子姉の夫になんか優ちゃんなれないよ」
「あはは。優、私と結婚したいの?」
「ああ!吸血鬼ぶっ殺したら姉ちゃんと結婚すんの!」
「翔子姉、優ちゃん漫画の読みすぎだよね?」

その声が聞こえていたのか、優一郎はここに漫画がないと反論したあとに通り過ぎの吸血鬼を指さして殺す発言をしたあとに嘘のことをいい始めた。ばしん、と、ミカエラのチョップを、食らったあとにミカエラは静かに話し始めた。そして、優一郎をどんぞこに落とすように呟いた。腕力じゃ吸血鬼をどうにもできないって、わかってるんでしょ、と。優一郎は面食らったように翔子の手を握った。どうすればいいんだよ、と嘆くように呟いて。

すると、コツと静寂を破るような音がした。振り返ればフードをかぶった吸血鬼を連れている長髪の男が立っていた。翔子は優一郎を抱き締めて、ミカエラに手を伸ばそうとした時にフェリド様、といい走り出した。ミカ待って、という制止の声も聞かないで。長髪の男の、フェリドの呼ばれた男はにんまりと笑みを浮かべて、今日も館に来るのか?とミカエラに尋ねていた。

「ねーちゃ、どいうい」
「ミカ、随分前からやってたんだ」
「え?」

フェリドはミカエラを撫でたあとにこちらを見てきたので翔子は優一郎を自分の胸に押し付けるように抱き締めた。そっちの二人も来るのかな、と言ってきたので、きつく睨んだらミカエラが走ってきて翔子の、背中に飛び乗った。

「姉と彼は恥ずかしがり屋なので、また」
「そう?それはざーんねん。特にその女の子は、とっても美味しそうだから」

舌なめずりが気持ち悪く吐き捨てたくなりつつもミカエラは笑顔を浮かべはい、と元気良く頷いた。




「ミカエラ、あんた、吸血鬼に、自ら血を飲ませてたの?
「姉、ごめん。でも、文句ないでしょ優ちゃん」
「文句ってお前……」
「フェリド様は貴族で、血を提供したらなんでも買ってくれるんだ」

生きていくなら要領よく、とミカエラが呟いたところで優一郎は力任せにミカエラの頭を殴った。そして、怒りながら背を向けてしまった。あ、優、と翔子は呼びかけ、ミカエラの頭をポンポンと撫でた。文句はないけどね、心配してるの、と優しく微笑んで優一郎の後を追うように入っていった。それをミカエラはただ、見つめていた。切なそうな顔をして。



ゴロンと、寝転がる優一郎の横に同じように転がり込んだ。風の通り道と言ってもいい空気ではなく排気ガスのようないい空気ではない。するとそこに明るい声が聞こえてきた。

「翔子姉、優ちゃん、まぁたここにいた。あれ?ミカは?」
「うるせーな、そばに来んなよ。姉ちゃんだけなんだよ、俺のそばに来ていいのは」
「あは、また優ちゃんの翔子姉贔屓、ねえ、いーじゃん。わたし達家族なんだから」

家族という言葉に耳をぴくりと立ててきつく睨んで優一郎は茜に言い放った。俺に家族はいない、と。その言葉に茜は笑い飛ばせたが翔子は家族ではないといことに深く傷ついていた。弟と思った人に、家族と思われていないということに。それは、勘違いである。優一郎は幼い時から翔子に好意を抱いていたものの家族となっては結婚すらできないことも知っていたのだから。だから、家族と認めたくなかったのだ。


四年前 東京

クリスマスの日。雪が降っていて寒さを覚える日の夜。百夜孤児院に新しい家族が入った。優一郎君、と言われた男の子はそっぽを向いていた。仲良くしてね、と言う言葉にミカエラは大きく返事をして、最年長である翔子はほかの子供に囲まれて仲良くするんだよ?と頭を撫でていた。

「やあ、僕はミカエラ!君も八歳なんだって?僕と同い年だ。この孤児院の最年長は翔子姉の十二歳だけど一番上の男の子は八歳だから仲良くしたいなあ!姉、こっち来て!」
「ちょっと、ミカ」

手を出してもぷい、とよそを向かれた。けれどミカエラは優一郎の腕を掴んでぶんぶんと腕を振った。ぱしん、と叩いたところでミカエラはあれぇ?と翔子を見てにやりと笑った。

早速リーダー決めを挑まれたのかなあ?と。リーダーは姉だけど、男の子のリーダーは姉を護らなくちゃいけないのだ。姉は僕たちの姉だから、それに、姉に逆らったらご飯がなくなっちゃうんだよ、とミカエラはにっこりと笑った。優一郎はいらっと、来て拳を握った瞬間にどたんばたんと音がして優一郎は床に転がった。

「ミカぁ、手加減してあげてよ。優、大丈夫?」
「改めまして優ちゃん。僕はミカエラ。君と同じで一人ぼっちだったけど今はここに家族がいる。そして君も」
「私は翔子。一番上のお姉さんだから姉とか姉ちゃんって呼んでいいからね」

差し出した手を一瞥してから苦しそうな顔をして優一郎は唇を噛みしめながら自分の過去を話しはじめた。実の父親に殺されかけた、と。母親は悪魔の子だとわめいて自殺。世間一般では良い顔されない過去だけれども百夜孤児院にはそんな子供は何人もいた。それよりもひどい過去を持つものも少なくはない。だから、周りは何ともない顔をしていたのだ。ミカエラに至っては笑顔で自分の過去を語った。両親に虐待されて車の窓から投げ捨てられた、と。その過去に目を見張った後に翔子にも身の上話をしろというように見つめてきたものだから翔子はにっこりほほ笑んだ。私はね、と口を開いた。同じように虐待されて、体に多くの痣が残ってて親戚の家をたらいまわしにされてその家でも虐待があって、最終的には殺されかけたのを近所の人が見つけて助けてくれたけど私の眼の色を見て悪魔だとわめいて坂から転がしてぼろぼろになったのを助けられたの、と。私も同じように笑顔だ。今思えばなんてことない過去なのだから。するとミカエラと翔子の後ろから孤児院の家族たちがひょこひょこと顔を出した。僕ね、親見たことなーい!自殺しちゃったー!孤児院の前に捨てられてた!なんて明るく言えるのはここの孤児院の子供たちくらいだろう。みんな笑っているのは寂しくないからだ。

「さて、みんなー。私たちは寂しくないよー」
「だってぇ、今日は…優兄ちゃんが来てくれたからでーす!」

わあっ、と騒めいて優一郎の元へ走っていく皆。ミカエラと翔子はお互い顔を合わせて笑ってた。仲良く出来そうね、と朗らかに笑った院長先生の下に急に赤い液体が溜まった。そして大きな音を立てて倒れた。はっとして翔子は院長先生のところへ走った。子供たちも院長先生の元へ集まった。すると耳を劈くような音がして、地面が揺れた。これは車がどこかにぶつかった音だ。それが各地から起きる。暗かった空が赤色に染まっていった。それが炎であると翔子は直ぐに理解してみんなを集めようとしたときにばらばら、とヘリコプターの音が聞こえた。優一郎とミカエラは窓にへばりついていた。

「警告します!!愚かな人間どもの手により致死性のウイルスが蔓延しました!!残念ながら人類は滅びます!!」

そのあとの警告の内容は十三歳以下の人間にはウイルスが感染しないこと、クルル・ツェペシと名乗る人間は子供を保護すると言っているが、絶対に違う。翔子は同じように窓に近付いた。回収するんだ。子供を。湧き上がる怒号、泣き声。耳が痛くなってめまいがしたときに子供の「翔子姉!」という声にはっと我に返った。この子たちを護らなくちゃいけない。私の家族なのだから。




あの時からもう、四年も経つんだね。茜は懐かしむように呟いた後にみんなが待ってるんだー、と笑った。翔子姉、今日はごちそうだから姉の力がないと作れないかも…、とぼそりと耳打ちしてきたので翔子は立ち上がり優一郎にひとこと言った。早く帰ってこないと姉、優の事嫌になっちゃうかもよ?と。これが優一郎に一番効くことを自負していた。茜は翔子の手を握って早く行こうとせかした。

大分時間が経ってから木造のドアが開いた。顔を出した優一郎に子供たちは集まった。優一郎は面倒臭そうにしつつも満更でも無いようだ。お帰りなさい、と微笑めば翔子の元にかけていく優一郎。茜はそれを見てぶふ、と吹き出した。本当に姉の事大好きだな、と。

「今日は翔子姉と茜がカレー作ってくれるんだってぇ!」
「カレー?んなもんどうやってつくんだよ」
「ミカが裏のルートで見つけて来てくれて…」

翔子はしーっ、と唇に人差し指を当て言っちゃだめだよ、と合図した。それもそうだな、とミカエラが数時間前に言ったことを思い出していた。私上手く作れないかもだけど、姉が居れば大丈夫だね、と笑ったけれど翔子も優一郎も顔色があまり悪くないことを悟って茜は黙り込んだ。


すう、と寝息が聞こえる中一つの大き目の毛布の中で翔子と優一郎は一緒に寝ていた。いや、寝てはいない。起きているのだから。二人はミカエラの帰りを待っていたのだ。するとかちゃりと控えめにドアが開けられた。

「翔子姉、優ちゃん、ただいま」

小さな声でそう呟いた。優一郎はそっぽを向いた。翔子は寝たふりをしてみることにした。ミカエラはぶぅ、と口を尖らせて「優ちゃんはお帰りを言ってくれないの?姉は無視しないでよー、ぎゅーってして!」と。優一郎は捻くれてお前の分のカレーは食ったと嘘を吐く。本気にしてないミカエラは驚いているふりをしていたがすぐに優一郎は素直になった。

「ミカ、カレーの為に、何されたの?怪我とかしてないでしょうね」

そう翔子が尋ねれば面食らったように黙り込んでしまった。優一郎は次は俺が行く、といったので翔子はダメだよ、と優一郎の口を人差し指で押さえた。

「優ちゃんは吸血鬼を倒してくれんでしょ?姉はすっごく頭がいいから、機会をうかがってるんだよね。それまでは僕が、がんばっ――」
「ざけんな。お前一人で何でも背負い込むなよ。俺だってばかじゃない、人間が吸血鬼勝てないなんてこと、本当は――」
「ミカエラ、優一郎。私は一番お姉さんなんだよ。頼りなさい。私が身体を張るから…」
「優ちゃん、駄目だよ。子供たちは優ちゃんの言葉を信じてるんだから。それに翔子姉、だめ。姉だけは傷つけさせないよ。姉は僕のすべてだから」

吸血鬼は倒せる、そう繰り返す優ちゃんの言葉に僕も元気づけられ、といったところでぼろ、とミカエラの瞳から涙がこぼれた。優一郎は慌てて翔子はミカエラを抱き締めた。が、なんちゃって、とミカエラは笑い飛ばした。けれど垣間見せた一瞬の顔がどうしても頭から離れなかった翔子は無理をして笑った。

「本当に、平気なの?」
「ほんとだよ。大丈夫だったのか」
「ま、大丈夫じゃないけどねー けどタダで血を吸われるような玉じゃないのだよ。このミカエラ様は」

じゃん、と可愛い効果音をつけて出したものは物騒なものだった。え、銃じゃないか。そして次に出したものは地図だった。吸血鬼世界から人間世界への出口が描かれてる地図。えっ、と翔子は目を見開いただけだったが、優一郎は叫んだ。見つけるためにフェリ度に近付いたらしいが、払った代償は大きかった。ミカが危ない目に合ってるにもかかわらず何もできなかった自分の無能さに腹が立っていた。
すぐ逃げよう、とミカエラは指示をし始めた。騒いでいる声に茜のめがすぅと開いた。

「で、でも外のウイルスはどうすんだよ!姉はもう、十六歳…」
「僕、此処に連れてこられたときに五歳くらいの子が死んでいるのを見た。十三歳以下は感染しないはずだったよね。でも、死んでいたんだ。例外が居る、姉だって例外かもしれない。可能性があるならやるしかないでしょ。それに僕も優ちゃんにとっても姉はすべてなんだから。助けるでしょ?それに百夜孤児院のみんなが集まればきっと何でもできるよ!」
「ミカ、それ、すごく無計画…」

「あれぇ、三人とも何話してるの?」と茜が目を擦るりながら現れた。優一郎は頭を掻きながらも分かったと呟いた。行動開始の合図になったようでミカエラは茜に全員起こすように言った。何を言ってるのかさっぱりなままの茜に三人は合わせて言い放った。

「この世界から逃げるぞ!」



大きく静寂に包まれた空間に百夜孤児院のメンバーは集まっていた。緊張していてもあっさり門についたことに拍子抜けしている翔子や優一郎。ミカエラは地図を見てここが出口で合っていると言った。こんなに門が近くにあるってことは馬鹿にされていたのだろう。逃げることはしないと。けれど、百夜孤児院は甘くはない。逃げ出そうと計画していたのだから。天才だとミカエラは自称したら周りも天才だと騒ぎだした。さあ、行こう、といった瞬間に高らかな声とどこかで聞こえたブーツの音がした。待ってたよ、哀れな仔羊くんたち、と聞き覚えのある声に身震いした。
ミカエラ、と振り返れば瞳は生気を失ってただ茫然と立っていた。フェリドは嬉しそうに呟いた。希望が突然消え去る時の人間の顔、だからこの“遊び”は止められない、と。罠だ、と言おうとした瞬間に何かが吹っ飛んだ。それが自分の家族だと、分かった瞬間に後ろでどすんと何かが落ちた。優一郎はそれを見た瞬間に銃を構えた。打ちはなっても簡単によけられた。それ僕の銃じゃない、と呟いた。抵抗する元気があると思ったのか地図が本物だと希望を植え付けられた。

「み、みんな、逃げなさい」
「翔子ねぇ…?」
「いいから早く行きなさって言ってるのよ!!!!」

叫んだ瞬間にわああ、と階段を走っていく。三人で足止めをしようと思った時のは遅かった。三人の間を簡単に抜けて逃げる子供たちの、家族を殺していった。やめて、と掠れた声しか出なかった。津が白い床に溢れて、自分の名を呼んだ子たちが消えていく。ミカエラは叫んだ。最後まで走っていた茜の背中にフェリドが立っていた。駄目、茜。いやだ… 茜は簡単に床に倒れた。優ちゃん、とミカエラは声をかけた。

「僕が体を張ってあいつを引き付ける。優ちゃんと姉は逃げて」
「ふざけないでよ!そんなこと…」

優一郎の手に握られていた銃をとってミカエラは微笑んだ。

僕らは家族だ――

そのまま走り去った。フェリドに立ち向かうように。フェリドはにんまりと口元に弧を描いていた。ミカエラが銃を構えてもあいつは何ともない顔をしてミカエラの腹をえぐった。それでもミカエラは銃を構えた、が、銃を持った右手が飛ばされた。これを無駄にしたくない、翔子は空を舞う銃を手に取ってフェリドの頭を後ろから打ち抜いた。

「死ね」

どす、と頭から血が流れミカエラが解放される。銃を投げ捨てて優一郎も翔子もミカエラに駆け寄った。

「優ちゃ、ねぇ…行って…地図のとおりなら、出口は直ぐ、そこ」
「駄目っ!ミカも一緒に行くの!」
「そうだ!!姉ちゃんと一緒に、行く!!」

すると遠くから他の吸血鬼の声が聞こえて生きた。僕たちを無駄にしないで、と掠れた声でミカエラは呟いた。翔子は目から涙を溢れ出して、フェリドの返り血で顔や髪が赤く染まっていた。優一郎は涙を流していた。俺の家族、と。しかし、ミカエラは喝を入れた。「早く行けよ!!馬鹿!!」、そう言って押した。翔子はミカエラの横を離れなかった。

「姉、お願い。生きて、僕ね、…翔子が、大好きで…愛して…」
「いやっ、いやなの…もう、やだ…」
「優ちゃん!!姉を連れてって!!」

優一郎は翔子の腕を引っ張った。それでもなお、叫んでいた。

「初めて、家族って言って… やっと、言えた…姉に、愛してる…って」

走り続けた。ずっとずっと走った。繋いで手は離さないで、遠くに明かりが見えた、希望の光なんて言えるものではなかったけれど、それでも、希望であると信じて。開けた視界には大きな建物に、澄んだ空。昔見た電車や人の姿。

「何これ、みんな死んだんじゃ…」
「見ろよ、みんな… ッ全部、吸血鬼の嘘だったんだ」

何のために、こんな、とぼやいた優一郎を翔子は抱き締めた。すると、草をかき分けるように現れた男性。預言通りだと、なにが預言だ。日本を壊滅させた百夜教の生き残り、だ。

「少年少女、吸血鬼退治のためにお前らを利用させてもらうぞ」
「…ああ、望むところだ」

「吸血鬼を滅ぼせるなら!!」

優一郎は叫んだ。黒髪の男性は此方に近寄って翔子の腕を引っ張った。この女は俺が持っていく、お前らは、と差された女性ははい、と優一郎の腕を引いた。

世界の滅亡と  吸血鬼  天使  悪魔と  僕らの戦いが始まった