あーあ、やっぱり与一くんでは足りなかったか。そうだよね、彼の中にははっきりとした欲望はないのだから。まあ、だからといってどうということもないがな。

優を傷付けるのであれば誰であろうと殺してやる。

けど、今回は多分グレンは狙ってるんだろうな。与一くんを目覚めさせるために。優か士方がどうにかするのを望んでるんだろう。優は優しいから、怪我しないといいけど。

すると与一くんの形をした鬼は私たち5人に向けて矢を放つ。私とシノアは普通によけられたけど優と士方はちょっと体勢が危ない。グレンは刀で薙ぎ払っていたが。

シノアはグレン中佐、と彼に何かを言おうとしているようだがまあ、それをグレンが許すこともなく。追加命令で基礎能力だけで始末しろ、だなんて。

そんな無茶な、とシノアは驚いていた。

「翔子と俺なら基礎能力だけであれを殺すことは容易いぞ」

優は躊躇っていた。士方はそうでもないようだが。ほんとに火をつけさせるだけつけさせる気か。何かあればきっとグレンが助けに行くのにね。

グレンは優に強く言った。優もグレンに気圧されるように刀を引き抜いた。そして2人で鬼と化した与一くんに立ち向かっていく。私はそれを見てるだけ見ていた。

「翔子、手を出すなよ」
「分かってるよ。でも、何かあったら私は優を助けに行くから」
「それは構わねーよ」

あーあ、武器を剥がしただけじゃ与一くんは戻りゃしない。優はどうやら本当に出来ないらしい。優しくなったね。仲間殺しイコール吸血鬼、か。仲間は見捨てない、か。

どれだけ優しい言葉を並べてもいつか、変わってしまうのでしょうけど。変わらないことを祈るだけで、絶対にそうなるとか限らない。

からん、と優が阿修羅丸を床に投げた。何してんの……!?丸裸で優は弓を構えた与一くんの方へ歩んでいく。目の前で家族を失ったんなら、仲間を殺せる訳が無い。

ねえ、優。私は目の前で家族を失ったけど、優の為なら誰だって殺せるのよ。私は、悪いこなのかな。優、私は最低なのかな。

だから早く目を覚ませよ!!馬鹿与一!!と優は叫んだ。だめ、と私は大和を構えて大きな鎌を作り上げた。もう、耐えられない!!シノアよりも士方よりも早く私は優の前に出た、が、グレンの喝で、私の動きが一瞬だけ遅れた。

そして、与一くんの動きも。与一くんから放たれた弓は優の右側に逸れてどこかへ飛んだ。そして泣きながら優に飛び付いた。戻ったか。

「与一、良くできました。頑張ったね」
「翔子、さん……?」

ぽんぽんと優と同じように頭を撫でたら穏やかな笑みを浮かべたグレン。あ、これだめだ。その瞬間に優が蹴飛ばされた。ぎゃあ、と声を上げて。何すんだこのやろっ!!!と彼に向けて叫べばシノアがぽつりとわかってて、とつぶやいた。

え?もしかしてシノア分かってなかったのか……?グレンは少しだけ不満そうにぐちぐちと何か言っていたが素直じゃないなあ、と私は溢れる笑を隠せなかった。

「優?優、大丈夫?姉ちゃんだよ、わかる?」
「ねーちゃ、頭痛い……」

グレン殺す。グレンは軽く与一を蹴ってから与一に向けて言葉を並べた。そして、優にも……私にも。

今いる家族に命を懸けろ、と。

ミカを茜をみんなを忘れることなんてできるわけが無い。過去には何もない?未来しかない?

そんなわけないじゃないか。

過去には私の犯した罪、家族を失った悲しみや負い目。私がここまで生きるために糧となる暗い思い出がある。だから、捨てて生きるなんてできる訳がない。捨てて生きられるほど軽い過去じゃない。


明るく話しているみんなと違う。優も何処か私から遠ざかっているように感じた。優は捨てるのか。過去を。これから、この家族を守っていくのか。

そこに私はいるのかな。