なんだ、これ。白い空間の中で血を出して倒れているのは四年前に俺が来ていたのと同じ服を来ている子供達だ。少し驚いていてもこれはこれが挑戦している鬼が出しているものに違いはない。動揺しても、これは、偽物なのだから。揺らぐな。決して。

やあ、優ちゃん。俺の大事な家族の一人であるミカエラ。鬼はミカエラの格好が好きらしい。前に現れた鬼もミカエラの格好をしていたから。けれど、これは鬼だ。気安く名前呼ぶんじゃねぇよ、鬼の分際で。俺は募ったいらいらを吐き捨てるようにミカエラの形をした鬼にぶつけた。

大切な家族の真似はやめろ。俺はそう鬼に告げたけれど鬼はまるでなんとも思っておらず俺が動揺しない事に疑問を持ち始めた。すると、ミカエラの口から黒い煙が形をなして、ミカエラがどすりと床に倒れた。ミカエラと反射的に叫んだが、これがミスだ。

鋭い角を持った煙が俺の腹を突き抜けた。ああ、なるほど、と鬼はその煙の中に二つの光を宿しながら呟いた。鬼に一度触れている、と。
俺は力を求めている。いいから力を寄越せ、とそれに強く言うけれど鬼はなぜ力を求めるのかと尋ねて、復讐のためか?と問した。

復讐の為でもあり、俺は愛すべき姉のために、愛すべき姉を護るために力を欲しているのに。初めてできた家族を失った。悔しくて悲しくて。

それは辛かったね、と俺の心を貫いた言葉。まるで他人事のように聞こえたけれど、その中には同情が多く含まれていた。復讐のためだけに、生きてくれ。そうしたら力をあげよう。けれど、復讐のため「だけ」?そしたら、姉ちゃんを護るのをやめろってことか……?

「愛を捨ててよ。与一?君月?シノア?仲間?何それ?それに翔子姉。君の中で一番大きいのは翔子姉だよね。優ちゃんだけ友達を作って幸せになるつもり?僕たちの愛した翔子姉と、二人で幸せになるつもりなの?いいなあ。僕だって生き残れたら、翔子姉と幸せになれたのに。羨ましいなあ。ずるいよ優ちゃん。僕たちはもう死……」
「あああ!!!くそ!!!てめぇらガタガタうるせぇええぇえ!!!!!」

いいから寄越せよ、俺には力がいるんだよ。復讐する力も、姉ちゃんを護る力も全部必要なんだよ……!!!全部を守る力が俺には必要なんだよ!!!!!!!!!!!

そこで光が差すように俺を貫いた黒いものは疼くように消え去った。

おーおー、愛と欲望が絡み合った。すごい矛盾。鬼は馬鹿にするように、感心するように言った。俺は何がどうなったかなんて分かってなくて混乱したまま言葉を聞いていた。

「君の心が強い限り君に従ってやる」
「ほんとか!?」
「けど、一瞬でも君の心が弱いと感じたら体をいただくよ。いいかな?」
「ああ!」

僕の名前は阿修羅丸。そう鬼は言った。阿修羅丸、か。俺の鬼。復讐と姉ちゃんを護るために俺の武器。すると阿修羅丸は「あ、あと」と言葉を発して情報をあげようと言った。

情報?なんのことだ……?

「君ね、少し妙なものが混じってるよ。既に一割くらい人間じゃない。それに、君のお姉さん。翔子に至っては三割近く人間じゃないよ。もしかして、人間どもに良からぬ改造されてるんじゃないかな」

は?何言ってんだコイツ……と、思いながらも何処かでグレンたちを俺は疑った。

「人間を信じるなよ優。まあ、これで契約は完了した。ぼくは君の力となろう。刀となろう。目を開け。君の強い欲望を膨張させて、世界を切り開いて見せろ!百夜優一郎!!!」





姉ちゃんが、人間じゃない?三割近く?俺だって一割人間じゃない?どういうことかわからないのを少ない知識の中でたくさん考えた。けれど、俺にはわからなくて、いつか姉ちゃんが教えてくれることを祈りながら俺は目を開けた。