小百合とクラスの担任をしているのだが、グレンの命令だとかはどうでもいい。優の傍に居れるならどうでもいい。うん。どうでもいい。

本日は先日やった呪術筆記試験の答案の返却日。ランク決めにも影響するのだけれど、まあ、優はあまり頭が宜しくない。宜しくない程度ならまだしも、なんてことだろうか。採点していた私が驚いた。まさか0点だなんて。まあ、だからなんだと言う話だ。優にそんなものは関係なのだから。小百合と二人で答案返却して終わった後に優の所に寄れば青くなった顔でどうしようと聞いてきた。これに至っては私はどうしようもないので目を逸らしてしまった。ごめんね優。

シノアはその様子をにやりと見つめていた。あ、これはやばい予感がする。予感的中らしく、シノアは華麗なステップで優の0点の答案を取って周りのクラスメイトに見せていた。あー、これはちょっと。私の中でなにかが彷彿としているけれど、きっとここで大和出したらグレンから優に会えなくさせられるだろうし、我慢我慢。うー、泣きそう。

「ね、ねねね、姉ちゃん!お、おれ……」
「シノア!!止めなさい」
「えー、もう遅いですしぃ」
「……殺すよ」

ぼそりと危ない発言してあっと口元を抑えた。やばーい。こんなことグレンに知られたらなにされるかわかったもんじゃない。シノアはクラスにとけ込めない優を人気者にしてるらしいが、これはただのいじめにしか見えない。

仲間や友達は吸血鬼殺しに、必要ないとまた言い争っていた。相変わらずだな、と苦笑いを浮かべた。超スーパー活躍する発言をした優に期待を持っているけれど、まあ、もうちょいしてからにしようかな。与一くんは優の味方らしい。優を庇うような発言をありがとう。今回は仕方ないと括ってくれた。けれどダークホース、君月。頭にクソでも詰まってんのか、と聞いたときはさすがの私もやばかった。つい、パイプにてを出してしまった。いや、なんとかやめたけど。

まあ、君月は100点だったからなあ。そこからまた喧嘩が始まった。ちょっと、やめなさいと壇上から声を掛けたところでガラガラと扉があいた。よく見る黒髪が現れた。小百合は嬉しそうに頬を染めていた。恋する乙女だなあ。私より歳上なんだよな。虚しくなってきたわ。

「おい翔子。なんだこの騒ぎは」
「優と君月ですね。ちょっと君月殴っていいですか。優を馬鹿にするなんて許せない」
「教師が生徒に手を出すなアホ」
「あいたっ!」
「てめぇ!姉ちゃん殴んな!俺に鬼呪装備寄越せ!」

優ががんがんと暴れているが君月は冷静に話していた。俺達には鬼呪装備契約可能な実力を持っていると。にやにやといやらしい笑みを浮かべているグレン。私はため息しかつけなかった。グレンいわくこの子達はクズらしい。殴っておいた。優がクズとか死ね。そしたら些細なことからまた言い争いが始まった。何と言うことだろうか。

報告書を読んでいても私たちの意見を聞くらしい。私と小百合は二人で話していた。小百合は自分が16の時よりはずっと強いと。ほかの奴ら、優と君月くん以外ではやはり目に付いたのは与一くんである。

「与一くんの心の安定度はクラスで一番だな」
「ほぉー、なるほど」

けれど私は次の事が予想できた。攻撃体制に入っていた。全くめんどくさいな。シノアは楽しそうに席を立った。ずん、と地面が揺れる。次々に倒れていく生徒。優も君月くんも汗をかいていたけれど与一くんはなんともないようだ。小百合は呪符をしてもなお辛そうだった。シノアは呪符無しで他えていたが汗が出ていた。まあ、私は呪符などいらないからな。普通にしていた。汗などかかなかった。与一くんに近いタイプだな。

事が済んだあとにグレンは黒鬼シリーズに挑戦させると言っていた。何を、とは思わなかった。優にも他の子にもそれなりの実力が身についているからだ。けれど、与一くんの安定度が人並外れているだけであって対抗する「力」を持ち合わせていると言われるとノーだ。彼は優しすぎるから。

「あー、立ってんのは優、君月、与一……おい、シノア、翔子。お前らは気絶しろよ」

あはは、とシノアは笑っていた。そこで小百合が口を挟んだ。無茶苦茶な試験、はまあ、いつものことだな。小百合の言う通り。小百合と私の意見は一致していたようだ。与一くんを黒鬼シリーズに挑戦させるのはどうかと思う、と。

珍しいな、小百合がグレンの言葉に口を挟むなんて。やはり、一人の教師だからなのだろう。しかし、小百合が何を言ったとしてもこの世界では強さが一番なのだから。私も、与一くんは危ないと口を挟む。シノアも同様に。

しかし、グレンは面倒くさそうに与一くんに命を懸けるか、と。与一くんは明らかに動揺していた。そこに優と君月もお前は帰った方がいい、と。きっと、今与一くんの中で葛藤があるのだろう。昔のことを思い出して、自分はどうしたいのかという。
僕やります、と与一くんは声を荒らげた。大切な人を失いたくない、と。やはり、彼は優しすぎる。何かあった時に、平気だろうか。私は眺めているのが仕事になるのだが。

ぎい、と扉を開ければ私が四年前に見たものと同じように鬼が並んでいた。最上位の鬼を封入した武器のあるところ。しかし、此処でグレンの悪い癖が発動する。全部適当にポンポンと、話を進めてしまうのだ。だから……と思いつつも私は優の頭を撫でた。

「お願いだから戻ってきてね、絶対によ」
「姉ちゃん、俺は姉ちゃんを護るため、吸血鬼に復讐するために生きてんだ。戻ってくる」
「……そう、わかった。」



待ってる間に君月は既に調伏させていた。私は彼に近付いてようこそ、と微笑んでみせた。これからはあなたも私の仲間なのだから仲良くしようね。まあ、優を傷付けたら許さないけど。

「士方、と呼ばせてもらってもいいかな?」
「構いません。」

すると、優のほうからかちゃ、と音がする。どうやら、終わったらしい。けれど、あちゃあ。ちょっと、与一くんは危ないらしい。だから言ったのに、力の器がまだ小さいのに。

月鬼ノ組初任務がまさか、人喰いの鬼になった与一くんを殺せだなんて、グレンもやることがあれだなあ。まあ、けど、優は殺しはしないでしょうけど。きっと、与一くんを取り戻してくれるに違いないし。でも、危ないから、と私は小さな棒を取り出して大和、とつぶやいた。何かあったら、優を護らなくちゃという、使命感を、持ち合わせて。