時刻は未明。東京の渋谷にて、日本帝鬼軍は本部となるところに集まっていた。そこには百夜の二人の生き残りのうちの一人、現在二十歳になる日本帝鬼軍で最も強いと謳われ、第二の真昼として目を輝かせられるうえに柊家から誰もが鬼になり果てたという黒鬼を手なずけ、憑依型にも関わらず特殊能力を引き出したという百夜翔子までもが、そこに参加させられていた。

まあ、その本部の中では冷や汗をかくひとがちらほらと目に付いた。理由は簡単だ。日本帝鬼軍中佐である一瀬グレンが大きな鼾をかきながら翔子の横で爆睡しているのだから。

グレン、と名を呼ばれてるにも関わらず目を開くこともなく、翔子はグレンを幾度かつついた。すると目をうっすらと開いてとんでもない発言をしたのだ。クソなげぇ会議は終わったか、と。
翔子は頭を抱えた。確かに聞いてるだけではつまらないし、私がここにいる理由も明白になっていない上に、私がここにいて何になる。それに知らない人ばかりじゃないか。

そのグレンを冷たく見つめる瞳は多くあった。すると低い声、日本帝鬼軍元帥である柊天利の声だった。グレンは負けずと薄く笑みを浮かべながら会議を小馬鹿にしていた。こりゃあ、私には無理だな。早く優に会いたい。天利の声は余計に低くなり、怒らせたと思ったところで仲裁委のようにグレンの態度はいつもこうだと救いの手を差し伸べたのは、彼の友人である柊深夜だった。話を続けましょうと切り出したところでグレンはがたんと席を立った。

「ちょっと、グレ……」
「俺行っていいか?情報は後でまとめてくれよ」
「何言って……」

グレンの驚くべく言葉に驚いている私。深夜も呆れるように苦笑いを浮かべた。フォローしきれないと彼を守る様な言い方であったがグレンは深夜を睨みつけてフォローを頼んだ覚えはないと。

現在の日本帝鬼軍を牛耳っているのは柊家であることぐらいどこの派閥だってわかっている。だからこそ、グレンは一瀬家はお呼びでないのだと言っている。言いたいことを言ったあとに征志郎は乱暴な言葉使いで、グレンに出ていけと言い放った。

私も、と席を立ったのだが天利直接からここにいろと言われて私はどうしようもなくなった。しかし、グレンは優しく頭を撫でてくれ、耳元で後でな、と言ってくれた。

「僕、翔子の隣に行きますね」
「深夜、別にいいのに」
「僕がそうしたかっただけだよ」

深夜はにこりと人受けの良さそうな笑みを浮かべた。深夜のこういう気遣いがどれほど私を救っているか。こんな、つまらなくて暗くて、腐った柊家の集まりの中でどれだけ頼りにしているか。グレンと深夜しか、会議の中では助けを求められないのだ。

ああ。優に会いたいな。優と話したいし、優にいろいろ教えなくちゃいけない。グレンと一緒に出ていきたかったなあ。後悔したところで現状は変わるわけもない。私は深いため息を心の中で付きながら話に参加することにした。ほんと、だるい。



会議後、私の周りには深夜の他、暮人や征志郎が集まっていた。こわ、と怯えそうだが私はそこまで緩んではダメだと言い聞かせた。グレンの派閥なのだから。

「翔子、柊家に来る気はないのか」
「暮人、いつも言ってる。行く気はないと」
「おい、翔子。お前、あのクズになにか吹き込まれたのか」

がしゃがしゃと頭を掴み揺らしてくる征志郎。髪の毛はばさばさになった。離して、と彼を突っ撥ねた。グレンは何も言ってないし、自分の意思でグレンのところにいるんだ、と言い切れば二人は心底つまらなそうにどこかへ行ってしまった。けれど、諦めが悪いからなああのふたりは。

「翔子、何かあったら頼ってよ。僕は翔子の力になりたいからね」
「ほんと、その言葉聞きあきたよ」
「えー。そうかな」
「うん でもね、深夜。私はちゃんとあなたを頼ってるから」
「ならいいけど」

彼はどうやら私をグレンのところまでエスコートしてくれるみたいだ。行動に甘えて、私は彼の思うように振舞ってみせた。深夜も満足そうで何よりだった。

途中で優を見かけたので走って抱き着いたら優も私を抱きしめ返してくれた。近くにグレンがいたのに気づいたけれどまあ、いいや。優ー、会いたかった!ぎゅー、と腕に力を加えれば優も同じように力を加えてくれた。ああ、可愛い。ほんと可愛い。