メロウ | ナノ
ピアスが帰ったあと。
あの後新幹線が来たから光は大阪に帰って行った
別れるときいつもなら寂しい気持ちを抑えながら
笑顔で「気をつけてね」って送り出すのに
今日はお互い何も言わなかった
違う、何も言えなかった
光がすごく苦しそうな、傷ついたような顔をしてたから
どんな言葉をかけたら光を傷つけないのかわからなくて、何も言えなかった
「ただいま」
誰もいない家に帰ってきた
今朝まで騒がしかったからかすごく寂しい感じがした
リビングに行くと見慣れたネクタイが落ちている
「…仁王くんかな」
帰るときにはジャージだったからわからなかった
それにしても今まで気づかなかったってすごいな自分
まぁ仁王くんが帰ってからは照れやらそんなので頭が回らなかったのかもしれないけど
『好きじゃよ、未緒。早よ俺んことだけ見て欲しい』
…私が仁王くんのことだけ見るようになっていたら
光は私に告白して、あんな苦しそうな顔をすることもなかったのかな…?
「…馬鹿な考えだなぁ」
自分で考えて自分で否定する
ずるい考えだ
光を傷つけたのはきっと私だから
その罪悪感から逃げたいがためのずるい考え
「ネクタイ…明後日、学校でいいかな」
精市に渡せば明日届けてくれるだろう
けどそれをしないのはきっと私がずるいから
(何でだろ…何だかすごく、仁王くんに会いたい)