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詐欺師と新婚生活的な。



「ん…」

いつもより早く目が覚める
覚めたといってもまだ眠い目をこすりながらリビングに向かうと
辛子色のジャージを着た仁王くんがいた

「すまん、起こしたかの?」

「ううん。なんとなく起きただけだから。部活早いね」

「真田が早起きじゃからのう」

「真田くん…見た目通りな人だな。ご飯食べた?」

「いや、いら…」

「食べなさい。朝食べないとって言ったの仁王くんでしょ?」

「よう覚えとるのう」

「そりゃあだって…」

…しまった
言われたのは遊園地の次の日、つまり絶対好きにさせてみせると仁王くんに宣言された日だ

「そりゃあ…何?」

仁王くんは意地悪そうな笑顔を浮かべてる
気まずくなるとかはなかったけど
これはこれで恥ずかしいぞ

「…それは、あれだよ」

「あれって?」

「〜っ、わかるでしょ!!」

未だ浮かべられる仁王くんの笑顔から逃げるように私は台所に向かう
パンでいいよね
うん、決定

「そんな恥ずかしがらんでもええじゃろ」

「だって…」

「そう思うっていうんは少しは俺のこと意識してくれとうってことかの?」

「わぁ、ポジティブ」

「…そこは嘘でもうんって言って欲しかったナリ」

仁王くんの声がしゅんとした声になる
ちょっと罪悪感…
いや、私が感じるのっておかしいよね?

「き、昨日は制服だったのに今日はジャージなんだね!!」

私の立場が悪くなった気がして無理矢理話題を変える

「シャツ昨日のままじゃけぇ皺だらけなんよ。ジャージは昨日も洗ってもらったけぇ今日はこれで行くぜよ」

よし、話題が変わった
ちょうど焼けたパンとジャムを仁王くんに渡す

「ごめん、制服も洗えばよかったね」

「いや、ジャージ洗ってもらっただけで十分じゃよ。さすがに2日連続は辛い…」

パンにかぶりつく仁王くん
なんかちょっと可愛いかもしれない
まぁ汗かくだろうから絶対臭いよね
仁王くんが汗かくのとかあんま想像つかないけど

「ごちそうさん」

「ごめんね、こんなんで」

「美味かったぜよ。それじゃ俺はそろそろ行くナリ。いきなりすまんかったの」

仁王くんはお皿を台所の流しに持っていってテニスバックを背負う
見送るために私も玄関に向かった

「邪魔したぜよ」

「いえいえ。いってらっしゃい」

「…」

「どうしたの?」

仁王くんは少し考えるような表情をして黙る

「いや、未緒と結婚したらこんな感じかと思っての」

「〜っ、バカ!!」

顔がかぁっ、と熱くなる
さっきの考えるような表情から一変して仁王くんはにやにや笑ってる

「いってらっしゃいのちゅーはないかのぅ」

「ないから!!早よ行け!!」

「へいへい。じゃあ行ってくるナリ」

それから仁王くんはにやにやした笑みから優しい笑みになって私を抱き寄せた

「好きじゃよ、未緒。早よ俺んことだけ見て欲しい」

「ちょっ…」

「じゃあの」

今度こそ本当に部活へ向かう
仁王くんの背中はどんどん小さくなっていくのに
私の心の中の仁王くんの存在はどんどん大きくなっていく気がした

 


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