妄想ラバーズ | ナノ

ピアス少年

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『…アンタ誰やねん』

目の前には黒髪ピアス少年

ちょ、何で私こんなに睨まれてるの!?
怖いよ!チャラいよ!

「あ、あの…」

『また追っかけか何かか?そういうんほんま迷惑やねんけど』

お、追っかけ…?
そういえば瑞稀がファンクラブがあるって言ってたっけ

「ち、違います!こちらのマネージャーさんを待っててですね…」

ますます怪訝な顔で見返される
ど、どうしよ…


『こーら財前、ウチの子をそない苛めたらんとって』

ナイスなタイミングで瑞稀が扉から出てきた

「瑞稀!」
『瑞稀さん…この人誰っスか?』

『東京から転校してきた私の従姉妹。今日は見学に連れてきてん』

へえ、と呟いてピアス少年は穴が開くかってくらい私の顔を凝視する


…お?

大音量で聴いてるのか、片方外れた彼のイヤホンから若干音が漏れ聞こえている

「…"tell you"?」

『え?』

うん、間違いない

うっすら耳に届くそれは某動画で最近うPされたばかりのミクの曲だった

って、え?このピアス少年が?

『…知ってはるんですか?』

「え、うん。それ、ぜんざいPの新曲だよね?」

『ぷっ』

いきなり瑞稀が吹き出した

ピアス少年の方を見ると、随分表情が柔らかくなってる気がする

『瑞稀さん、この人…』

『あははは!ぜんざいって!…せやで、白石の同類』

なぜ瑞稀はぜんざいにウケてるのか…

「私ぜんざいPの曲大好きなんだけど……どうしたの?」

するとピアス少年が私を見つめ直して口を開いた

『先輩、名前は?』

「3年2組、水瀬羚奈…です」

『俺は2年の財前光っスわ。まあぶっちゃけ所謂ヲタクで、ぜんざいPって名前で某動画やってます』

………

いま、なんていった?

「え、と…」
『だから俺がぜんざいPなんですって』

………

「ええええええええええ!!!!」

『ちょ、羚奈うるさい!』

だだだだってまさかこんな身近に心からリスペクトしてる方がいらっしゃるなんて…!

「えええ、ちょ、えっと…サイン、貰ってもいいですか!」

ピアス少年、もとい財前くんは一瞬きょとんとした後、噴き出した

あれ?なんか今日よく噴き出される

『ぷっ…先輩、なかなか面白い人っスね。白石部長の同類ってことは、腐女子なんや…意外やな』

「あ、うん…よく言われる。てか白石くんにも言われた」

『そりゃそうやろ…って瑞稀さん、いつまで笑てはるんですか』

『だって財前アンタぜんざいて!どんだけ好きやねん…』


な、なるほど…ぜんざいP、まさかの由来である
しかしこの風体でぜんざい…

『似合わん、とか思ってますやろ?』

え、マジか。この子エスパーか

バレバレっすわ、と言いながらも彼は柔らかく笑った

「ま、先輩とは気が合いそうやわ。また今度ゆっくり話しましょ。ほなまた、羚奈先輩」

そう言って鼻歌を奏でながら颯爽と扉をくぐって行ってしまった
しかも鼻歌がちゃっかり自分の曲…!


『さ、私らも行こか』

あとに残された私と瑞稀はテニスコートに向かい始めた

てかまだ見学すら始まってないのに、なんかすっかり分かったことがある


「ねえ、瑞稀」

『ん?』

「テニス部ってなかなかカオスなのね…」

『…まだ序の口やで』


いやいや、すでに濃すぎる


(これが大阪か…!)
(違うやろ)
(じゃあテニスだから…?)
(…いや、四天宝寺やからちゃう?)


 


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