妄想ラバーズ | ナノ
未知の領域
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「おはよう、白石くん」
『おお、おはようさん』
朝から爽やかな笑顔を浮かべる彼に挨拶して、私はBL本の詰まった紙袋を差し出した
「これ、昨日の…」
『あ!ほんまに!?おおきに!』
さすが腐男子というか、すごく嬉しそうに笑う彼を見てると私も嬉しくなった
すると瑞稀が何やら複雑そうな面持ちで尋ねた
『あれ…もしかしてバラしたん?』
『おん、昨日偶然メイトで会ってん』
嬉しかったわー、と話す白石くんに瑞稀は呆れ顔で言った
『なるほど…まあ、よかったやん。お互いに』
ほんとにそうだよね
転校先で仲間ができるなんて夢にも思わなかったもん
「そうそう、それでね、今日テニス部覗きに行ってもいいかな?」
『おん、大歓迎やで!』
『え、何で?』
イキイキしてる白石くんと私の顔を見比べる瑞稀
『水瀬さん、絶対喜ぶわー』
『…ああ、なんとなく分かった気いする…』
半目になった瑞稀をよそに、私は放課後への期待でいっぱいだった
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「うわー…テニス部の部室って雰囲気あるねぇ」
表札のかかった和風な造りの扉を見上げて私は感嘆した
四天宝寺ってこんなとこまでお寺みたいな雰囲気なんだ
『やろ?私着替えてくるから、ちょっと待っといて』
瑞稀が扉の向こうに消えていくのを見送って、とりあえず塀にもたれて待つことにした
『あれ?アナタもしかして…』
突然自分の前で立ち止まる気配に顔を上げると
…えーと
『小春?誰やねんこの女』
なにやら形容しがたい2人組が立っていた
『もお!ユウジ失礼やろ!!ごめんねぇー?』
「は、はあ…」
え、何この状況
目の前の2人組はとりあえずすごく密着してる
男子…だよね?え、リアルなホモ?
『アナタ噂の転校生の水瀬羚奈さんやんねえ?近くで見たらますますお人形さんみたいやわあ!』
『そうか?俺は小春の方が『うっさいユウジは黙っとき!』
『小春…』
「えっと…あの」
どう反応すればいいか分からずひたすら困ってると、白石くんがこちらに走ってきた
『水瀬さん!』
『あら蔵リン!今ねえ』
『小春、ユウジ!ああもう水瀬さん困っとるやないか…堪忍な、また後で!ほら、着替えに行くで』
「あ、うん…」
『ええー蔵リン冷たいわあ!ほな水瀬さん、後でまた改めて紹介させてや』
ニカッと笑顔を見せる彼?と困り顔の白石くん、あと未だに『小春…』と呟きながらヘコんでる彼の三人がまた扉の向こうに去っていく
「四天宝寺のテニス部って……濃い」
なんか未知の領域を見た気がした。うん。
でも瑞稀はあの集団の相手してるんだよね…想像がつかない
(瑞稀まだかなー…)
『…アンタ誰やねん』
またかよ…と思って顔を上げると
わお…これはまた…
イヤホン付きの耳にカラフルなピアスを5つもぶらさげた、いかにもチャラそうな黒髪少年が立っていた
(ここのテニス部って一体…)