tell you | ナノ

誰よりも

〜side 財前〜


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ワケ分からんまま走って走って

気がついたら体育館裏まで来とった


「何やってんねん…俺は」

教室に帰ろうかと思ったけど、なんか次の授業に出る気はせんかった
荒れた息を整えながら考えを巡らせていると、次第に足音が聞こえてきた


『財前くん!!』

え…?

『財前くん!待って!』

杏奈先輩が息を切らせて走ってきた

なんで…
もう、いいから

先輩の方が直視できんくて、俺は背中を向けた


「なんで、来たんスか。白石部長と」『ちゃうねん!』

先輩は今にも泣きそうな声で叫んだ

『私は!』

胸が騒ぐ


『私は…私は財前くんのことが、好き…です』


一瞬、世界が止まったかと思った

「蔵ノ介は、協力してくれただけやねん…だから、お願いやから、誤解せんといて…私はずっと前から」


気がついたら抱き締めていた
先輩の身体はすっぽり腕に収まるくらい小さくて震えていた
多分俺も震えてると思うけど


「俺の勘違いちゃいますよね…?」
『…うん』


「杏奈先輩…」

『…うん』

「俺も好きっスわ」


腕の中の先輩が嗚咽をもらし始めた

「…なんで泣くんスか」

『だって…ッ…夢…ちゃうやんな…?』

…俺もそう思う
真っ赤な顔で泣きじゃくる先輩が愛しくて、俺はさらに強く抱きしめた


「もう…ほんま可愛すぎやろ」


ベタやけど、このまま時間が止まればいいのにって本気で思った


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「目、腫れてもうてますよ」

『ほんまに!?どうしよ…』


昼休みももうすぐ終わる
2人で杏奈先輩の教室まで向かっていた

「『 あ 』」


すると部長と謙也さんに鉢合わせした

『あ、財前…』

謙也さんはなんか急にそわそわしだした

はあ…

「杏奈先輩、ちょっとアホの謙也さんの相手したっといて下さい」
『え?うん…ええけど』

『ちょ、財前?てか杏奈もそんな嫌そうな顔すんなや!』

いやだって謙也さんには用ないしな
俺は…

「白石部長」

『なんや?』

気持ち悪いくらい爽やかな笑顔で返された

「なんやエラいまどろっこしいことしてくれはったみたいで」

あれが演技?
ほんまややこしいわ…


『まあそう言いなや、結果的にはめでたしやろ?』

……それはそうやけど
俺が溜め息をつくと部長はまたあのニヤリとした笑みを浮かべた


『まあ、お前が杏奈を泣かせたりせん限りは応援したるさかい』


「部長に心配されんくても平気っスわ。杏奈先輩のことは任せて下さい…幼なじみなんかよりもちゃんと世話焼くんで」

部長は笑って俺の肩に手を置いた

『おん、任すわ』

部長のあれがあながち演技じゃなかったとしても、もう渡す気なんて…手放す気なんてさらさらない


「杏奈先輩!もうええっすよ」

『ほんま?じゃあ謙也バイバイ!』

『お前ら…』


駆け寄ってきた先輩を後ろから抱きしめる

「そういうわけで先輩ら、今後は杏奈先輩に必要以上に近づかんといて下さいね…俺のなんで」

『……ッ!』

杏奈先輩の顔がみるみる染まっていく

『ざ、財前がデレとる…!?』

先輩らを見るとなんか唖然としとった



(俺が誰よりも幸せにしたりますわ)