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おせっかい

〜side 白石〜


『なあ蔵ノ介…私って、財前くんのことが好きなんかなあ…?』


彼女が初めてそう切り出したんは、いつのことやったっけ

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杏奈は俺の大事な幼なじみや

ちっさい頃からずっと一緒に育ってきて、お互いが特別な存在やった


それに俺から見たら、杏奈が財前を意識してるのなんて分かってたことやし

当然、財前の気持ちもお見通しやった

なのに


改めて本人がその気持ちに気づいたとき、何故か胸が痛かった



それからたまに杏奈の相談を受けるようになった

『財前くんに自分で好きって言いたい』

ある日突然、彼女は思い詰めたみたいに言い出した
…いや、お前が言わんでも、そのうち財前の方から言うやろ


『私な、これが初恋やし…いつも誰かに頼ってばっかりやから、こんなときくらい自分の言葉でちゃんと伝えたいねん』

それならあかんかってもいいねん、と杏奈は泣きそうな顔で言った


昔から人見知りで、俺の後ろに隠れてばっかりやった引っ込み思案な彼女が、まさかそんなことを言うようになるなんて

よっぽど財前のことが好きなんがひしひしと伝わってきた

"初恋"

最初から俺はそういう対象じゃなかったんやろうな


悔しい?
俺はアイツのことが好き…?


今まで、杏奈のことをどう思ってるんかなんて考えたことがなかった


だっていつも当たり前に隣におったから


結局その結論は出さんかったけど

杏奈のこの願いを叶えれば、自分も何かから解放される気がした


それから俺は、わざと財前にけしかけるような真似を始めた


いつも生意気な後輩はまんまと焦りだした
後は謙也が財前の背中を押して……よし


きっと俺の考えたシナリオは成功するはずや

そしたら杏奈は…


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俺は杏奈と謙也が居るはずの屋上へ向かった

『え、白石?!お前委員会は…』

2人ともぽかんと口を開けて俺を見つめた

「杏奈、ちょっとこっちおいで」

財前が渡り廊下を通ってこちらへ向かっているのを確認して、杏奈に手招きした

『え?うん…』

駆け寄ってきた杏奈を俺はすぐに抱きしめた

『え!?ちょ、蔵ノ介…』

『白石!?』

「まあ大丈夫やから落ち着きいな。杏奈、そのまま後ろ向いとけよ」

さあ、そろそろ仕上げやな


…ガチャ

『なっ…!』

扉を開けた財前はこの光景をみて一瞬で固まった


「…なんや財前、えらい遅かったなあ」

財前は計算通りこの場を走り去っていった
後は送り出すだけ…


『財前くん…!』

泣きそうな声で叫ぶ杏奈を腕から放して俺は言った

「ほら、これでやっと伝えられるやろ。行ってき」

『え…?あ…!』

杏奈は何か気づいたそぶりを見せて頷き、財前の後を追って走り出した

最後に聞こえた『ありがとう』はすっと胸を通り抜けた


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『お前…俺が財前の背中押すん見越して委員会あるって嘘吐いたやろ…』

謙也が呆れたようにため息をついた
おん、びっくりするくらい成功したわ


「さあなぁ…でもこれであのヘタレカップルもやっと上手いこといくやろ?」


『お前は、ほんまにこれでええんか?』

「何をいまさら」

これで俺もすっぱり整理つけられるやろ
自分のために、俺は杏奈の願いを叶えたんやから


『はあ…お前も難儀やのお…』

ニコニコ笑う俺を半目で見ながら謙也が呟いた

今は、アイツが幸せならそれでいいって綺麗事を吐いとくことにする


「まあ要するに、俺もお前もおせっかいやっちゅー話や」

『何やそれ』


俺の可愛い幼なじみ


あとは、あの生意気な後輩に任せたろ