tell you | ナノ

宣戦布告

『財前!もう授業終わったで!』

「ん…ああ、めっちゃ寝た…」

目をこすりながら顔を上げると見慣れたクラスメートの顔

『ほんま寝過ぎやわ!今日も部活やろ?』


そうや、部活や!

「おお、はよ行かなあかん」

眠気をすっ飛ばして俺は急いで支度を始めた

『…なんやお前、最近部活行くんエライ楽しそうやなあ』


「そうか?まあとりあえず行ってくるわ」


ひょいとカバンを背負うと急いで教室を飛び出した

脳内でさっき言われた言葉が反復される
…楽しそう、か…


まあ確かにそうかもしれん

だって


「杏奈先輩!」

『あ、お疲れさま。財前くん』



そりゃあ好きな人がマネージャーやったら楽しみにもなるわな


----------

着替えて部室を出ると、いつも通り大量のドリンクを運ぶ先輩の姿が見えた
小走りで駆け寄って横からドリンクのカゴを1つ奪った

「ドリンク運ぶん手伝いますわ」

『ほんま?いつもありがとうなあ』

いやその笑顔が見れるんやったら喜んで


テニス部マネージャーの杏奈先輩はめっちゃ可愛い

だいぶ天然でどんくさい人やけど、毎日一生懸命仕事してる姿も見て話してるうちに、いつの間にか好きになっていた


そんで毎日部活前にこうしてちょっと喋れるんが俺の癒しの時間やったり


『それでな、財前くん』
『杏奈!』

…来た。
近づいてきたその気配に俺は胡乱な瞳を向けた


『蔵ノ介!どしたん?』

『おん、ちょっと手ェ開いたら来てや』
『わかった!ちょっと待ってなあ』


はあ…またや

何か杏奈先輩とおったらいつも白石部長が来る
もはや邪魔されてる?

いや、絶対邪魔してるとしか思われへん

『財前くん?』

「あ、いや…何でもないっスわ。あ、ドリンクここ置くんスか?」

『あ、うん。体調とか悪いんやったら無理したらあかんで?気い付けてね』

ちょっと暗い顔をしただけで心配してくれる優しい先輩
その柔らかい笑顔が眩しすぎて、俺は思わず悪態をついた

「それはこっちのセリフっすわ。先輩こそまたドジらんように。」

『だ、大丈夫やもんっ!手伝ってくれてありがとう!』

いちいち顔真っ赤にする

なんか、こういうとこ…先輩って感じせんくて可愛いねんよなあ

「いえ、ほなまた」


俺は部長の元に走っていく先輩の背中を見つめた


優しい杏奈先輩は、マネージャーなだけあって俺以外にもみんなに優しい

だから結構みんな狙ってたりする、らしい
まあ当然か…

それに部長や謙也さんとも同じクラスで、仲良いしな

部長…か

あの人、なぜか杏奈先輩と一緒に帰ってるらしいしな
「はあ…」

俺は憂鬱になりながらコートに向かった

-----------

『お疲れさまです!』

練習後、先輩が明るい笑顔でタオルを渡してくれる

癒される…


「また荷物運ぶん手伝いましょか?」

『じゃあ俺も手伝うわ』

横から突然声がした
部長…また…

『2人ともありがとうなあ!じゃあ途中まで頼むわあ』

杏奈先輩はそう言って無邪気に笑うけど

…ほんま勘弁してほしい



先輩と別れて部長と着替えに行く


『何やねんそんな怖い顔して』

思わずしかめ面をしていると部長は苦笑した
分かっとるくせに…


「部長……邪魔っすわ」

『え?何がや?』

気持ち悪いくらいの笑顔で流された

うっわ、白々しい…


『財前、鍵締め頼んでええか?』
「めんどくさ…まあええっすけど」

部長は何事もなかったかのように俺にカギを渡した
はあ…なんかもうどうでもよくなってきた…

『ほな、お先に』


部室を出ようとした部長が突然止まって俺の耳元で呟いた



『そう簡単に渡せるかい…』


……!

「…お疲れさまです」

パタン

部室が静寂に包まれる

「ほんまに掴めん人やな…こわいこわい」


…まあ俺も、渡す気ないけどな。


どうやら俺はカギだけじゃなく宣戦布告も受け取ったらしい