短編 | ナノ


ポーカーフェイス




「…私、ずっと財前くんのこと好きやってん」

当たって砕けろ的な勢いで、私は大好きな後輩に想いを伝えた
でも女嫌いでドライな彼のことやから、どうせ無理やろうと思ってた

だから

『俺も、先輩のこと好きっスわ』

返ってきた言葉はむしろ予想外すぎて驚いた


---------------


『那美先輩、帰りましょ』

「あ、うん!」


それからというもの、部活が終わったら毎日迎えに来てくれる
よもや付き合ってもらえるなんて思ってなかったから、なかなか戸惑いまくりやねんけど

こんな普通に幸せでええんやろか

………

……

しかし会話がない

隣を歩く財前くんはずっと前を向いたままで、一度も口を開いてはくれない

でもほんま綺麗な顔やなー…


彼のポーカーフェイスな横顔に思わず見とれてしまった

『?なんか顔についてます?』

「いや、何でもないねん…」


彼はそうっスか、と言ってまた前に向き直ってしまった

再び訪れる静寂

気がついたらもうすぐ我が家に着くところやった


『じゃあ、また明日』

「うん、送ってくれてありがとう」

門の前でいつも通り手を振り合う
彼に背を向けて玄関に向かいながら、私はふと暗い空を見上げた


こんなに幸せやのに贅沢言ったらあかんかもしれない

でもこれじゃ一緒に帰っても寂しいだけやって、どうしても思ってしまう

ドアに手をかけながら振り返ると、彼の姿はもう無かった


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下校時間を知らせるチャイムが響く


また、あのもどかしい帰り道がはじまるんか…

はあ……
何で私は、付き合いたての彼氏と一緒に帰れるのに、憂鬱になんかなってるんやろ…



…………
……

告白したあの日から数日経ったけど、未だに部活のとき以外で喋ってもらったことはない


…これで付き合ってるっていえるんかな?

ほんまに財前くんは、私のことを好きでいてくれてるんかな?


いつもは愛想ないけど、彼は実はほんまに優しい
何回もさりげなく助けてもらったことがある


あれ?

ひょっとして財前くんは、先輩の私に気遣って付き合ってくれとんかな…?
想ってるのは、私だけで…


そら喋ることも無い、よな…


そんなことを考えてたら、無意識に涙が滲んできた

「……ッ」

『先輩!?』

頬を伝う涙を見てぎょっとした財前くんは慌てて足を止めた

『どうしたんですか?!何で…』

次から次へと涙が溢れてきて止まらへん

「…ごめんな…っく…無理、させて…もて…」

『無理…?』

「財前くんは、優しいから…好きでもない私と付き合うてくれてるんやろ…?」

『……!』

だから

そう言いかけた私を、財前くんは急に抱きしめた

「え…?」

『ほんまに、すんません…俺がこんな態度やから、不安にさせてもうたんスよね…?』

強気な彼にしては珍しく、弱々しい声音だった

『俺、ほんまに嬉しいんスわ…那美先輩と付き合えて。だから、緊張してもうて…何を話せばええか分からんくて…』


ああ、そっか

私と同じやったんか

「ううん…ありがとう。どうしよ、めっちゃ嬉しい」

腕から私を放した彼の顔は見たことないくらい、

真っ赤に染まっていた


『うわ…俺、カッコ悪すぎやろ…。』

顔を隠しながらまた私の横に並ぶと、彼は下を向いたまま言った

『那美先輩…手、繋いでもええですか?』


「うん…!」

初めて握った彼の手は、照れてるせいか意外とあったかかった




『それと、もう一つ』

繋いだ手にさらに力が込められた


『俺、いくら何でも、好きでもない人と付き合うたりできませんから』

……!
それは…


覚えといて下さい、と続けながら財前くんは柔らかく微笑んだ


(ポーカーフェイスの下には)
(意外な一面が隠れてたりするらしい)

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