短編 | ナノ


シャンプーの彼女


(あ、また…)

俺が降りる一つ前の駅
俺がドアの近くに立ってたらいつも鼻をかすめるシャンプーの香り
毎朝俺と同じ電車、同じ車両に乗る名も知らない女の子がその香りの発信者やった

(何て名前なんやろ)

名前も知らない、話したこともない、ただシャンプーの香りだけしか知らんその女の子に
俺は恋しとった

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「何ていうん?あの清楚かつ可憐な香り…エクスタシーやわ!!」

「白石…お前が変態やっていうんは知っとったけどさすがに引くで」

学校で俺は謙也に電車の彼女の話をする

「なんでやねん」

「見ず知らずの女のシャンプーの匂い嗅ぐとか変態やろ」

「嗅ぐんちゃうわ!!自然に香ってくるんや!!」

こいつ何もわかっとらんな
自然に鼻をかすめる香りにエクスタシーを感じるんや

「…そんなに気になるんやったら話しかけろや。お前やったらどんな女の子も一発やろ」

「アホ」

そんなことできるかいな
口にはださんけどな
謙也のことをいつもヘタレヘタレ言うてるはずやのに
俺のがヘタレみたいや
多分、本気なんやろなって思う
本気やからこそ話しかけなあかんのかもしれんけど

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帰りの電車は下校時間が学校によって違うからか朝よりもすいとる
朝は座れんくていっつも立っとうけど帰りは座れた
電車に揺られながら植物図鑑を読みふけっとった

ガー

1駅過ぎて彼女の駅
ちょっと期待しながらドアを見る
…って今まで帰りは一緒になったことないんやけど

(…嘘やろ)

なんちゅー偶然か
いや、運命やと思いたい
彼女が俺と同じ電車に乗ってきた
しかも、隣の席

(本なんか読んでられんわ)

今日の謙也の言葉を思い出す
この機会を逃したらもう話せへんかもしれん
せやけど俺は勇気が出んくて植物図鑑から顔を上げられへん
やからって読むん集中できるはずもない
なんせ隣やで?
謙也、ヘタレは俺やったわ

結局何も話しかけることができんまま彼女は電車を降りた

(はぁ…ん?)

彼女の座ってた席、つまり俺の隣に生徒手帳が落ちとった
俺のやない

(あの子の?)

俺はそれを拾って慌てて電車を降りる
彼女はもう向かいのホームに移動しとった
走って彼女を追いかける
中身で名前を確認するのも忘れずに

(古西…那美いうんか)

全速力で走って向かいのホームに着いた
彼女を探す
すぐに見つかった

「なぁ」

彼女の肩を叩いて呼んだ
振り返るときにはいつものシャンプーの香り

「これ、落としたで」

「え?あ、本当だ。ありがとうございます」

差し出した生徒手帳を受け取って鞄にしまう古西さん
俺は何話せばいいかわからんくて黙っとったら何とも言えん空気が流れる

「あの…」

「え?」

「電車…いつも一緒ですよね?」

…ここから何か始まるかもしれん、と柄にもなく思った

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