短編 | ナノ


オーバーヒート!




"図書室の一番奥の本棚の前で結ばれたカップルは幸せになれる"

我が四天宝寺中学校にはそんなジンクスがあるらしい

アホらし…

いかにも今から告白します的な感じの女子に目をやりながら図書委員の私は溜め息をついた

いや、別にいいけどね?
ジンクス目的の生徒は本を借りないから、利用者は増えないのが虚しいとこだけど

それに…私には全く関係ない話だし

いつも通りお気に入りの本を広げながらカウンターに座っていると、小さく寝息が聞こえてきた

はあ…

「財前くん…ほら、もうすぐ昼休み終わるで」

ん…、と目をこする彼は財前光くん

ピアスめっちゃ開けてるし、いかにもチャラそうに見える財前くんはあのテニス部の二年生レギュラーだと言うんだから驚きだ

『おおきに…俺カギ返しとくわ』

そう言って立ち上がる彼の容姿は人目を引く、いわゆる美形である

ま、こんな美少年とふたりで図書当番してる状況にもびっくりやけど
恋愛モノはあんまり読まない私でも感動するシチュエーションだ


でも一番びっくりなのは

私がこの財前くんに密かに憧れちゃってることだ

まあまず釣り合わないし、絶対無理だって分かってるけど、

この週に1回の図書当番の日が私の一番の楽しみなんだよね

『古西、ほなまた放課後な』

そう言って少し微笑む財前くんにちょっと、いや…かなりときめいてしまった


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放課後の図書当番

もう利用者はほとんど誰も居なくなって、各々本を読んで暇を持て余していた

読書をしているときの彼の横顔が一番好きやったりする私


「財前くん、めっちゃ読むスピード速いよなあ…量もすごい読むし」

『おん、よお意外や言われるわ。…似合わんとか』

「そうかな?私に言わしたら全然違和感ないけど」

むしろ横顔が大好きです、とは当然言えずにまたページに視線を落とすと、財前くんがふいに呟いた

『古西って…変わっとるよな』

え?

「え、うそ。何で?」

『いや、なんちゅーか…他の女子に比べたら全然違うなって。まあ俺はそういう女子は苦手やねんけどな』

ああ
いつもテニスコートのフェンスに張りついてはる皆様のことか


「あー…なるほど。私はさ、テニスしとる財前くんも、静かに本読んどる財前くんも一緒やのに、勝手に自分らのイメージ押しつけてミーハーに騒いだりするんは…はっきり言って迷惑なだけやろって思うから」

やばい
ちょっとキツいこと言いすぎたかな

慌てて謝ろうとする私に、財前くんは今まで見たことない笑顔を向けた

『いや…おおきに。俺、お前のそういうとこめっちゃ好きやわ』


ちょっ…

彼の笑顔と言葉の破壊力が強すぎて、私は完全にフリーズした

『お、もうすぐ閉館時間やな』

「じゃ、じゃあ私この本だけ片付けてくるわ」

気恥ずかしさに耐えられんくなった私は、詰み上がっていた返却本を抱えた

お、重い…

よろめきながら図書室の奥に向かおうとすると、抱えた本がパッと半分以上減った

『アホ、ひとりで持ちすぎやろ』

耳元で聞こえた低い声に、鼓動がさらに高まった

…おかしい

なんか、今日、絶対おかしい!

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2人がかりだと本の整理もさくさく進んで、残りもあとわずかになっていた

『なあ、古西』

「な、なに?」

『ここって、あのジンクスの場所やんな?』

"図書室の一番奥の本棚の前"


心臓が、うるさい

すると突然彼は私の腕を強く引いた

「ちょ、」

『好きや』

え…?

『俺、ずっと古西のこと好きやってん』

ちょ、え…いや、ええええ!?

完全にパニックに陥った私に向かって、彼はさらに言葉を重ねた

『なあ…返事、』

いやそれ以前に!

「え、てか、私…?私なんかじゃ、財前くんには…」

だって、君は女子みんなの憧れで…

「いっ」

いつのまにか泣きそうになっていた私に、彼はデコピンを食らわせた

『アホ…俺は、お前やないと嫌やねん』

財前くんの声音が優しすぎて、胸がふつふつといっぱいになった

ほんまに、私も言っていいんかな…?


「…私も、財前くんが好き」

どうにか言葉を紡ぎ終えた私の唇に、優しくなにか触れる感触がした

「!!!」

沸騰しそうなくらい顔を火照らせる私に構わず、彼はまた笑顔で言った

『あのジンクス、ほんまやってんな』

「え?」

『やって今、めっちゃ幸せやもん』


無理やって諦めてた
週に一度しか近づけない、遠い存在やと思ってた

ジンクスなんて、私には関係ないと思ってた


『ま、今までも一緒に図書当番出来てめっちゃ幸せやってんけどな』


だから悠々と微笑む彼があまりにかっこよすぎて、ほんまに頭がオーバーヒートしそうやった


(その強気な微笑みに)
(ときめきすぎて死にそうです)

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