短編 | ナノ


離さない


「寒い。那美、こっち来んしゃい」

雅治はポンポンと自分の膝を叩く

「えー、やだよ」

「おまえさん俺を凍え死なす気か?」

「…もう」

私は渋々雅治の膝の上に座ってやる
雅治はぎゅっと抱きついてきた
私も少しあったかくなる

「あったかい?」

「ん」

「大体雅治は食べなさすぎなんだよ。脂肪がないからそんなに寒いの」

「脂肪がないから寒いんじゃったら夏はもっと快適に過ごせるぜよ」

「夏は栄養が足りてないんでしょ?」

「…」

言い返してこない
私が言ったように雅治は食べなさすぎだと思う
一緒にご飯のときとかどっちが男かわかんないくらい

「心配してくれとるん?」

「そりゃあ、まぁ…」

「何でじゃ?」

「何でって…雅治が食べないから」

「そうじゃのうて」

雅治の言って欲しい言葉はなんとなくわかったけど恥ずかしい
雅治は後ろから抱きついてるから顔は見えないとはいえ…
無理だ

「耳、真っ赤ぜよ?」

「〜っ」

「言うてくれんの?」

耳元でそっと囁かれる
何でこんなかっこいい声してるかな−

「…雅治が好きだから心配なの」

やばい、顔から火が出そう

「俺も那美のこと大好きじゃよ」

雅治の腕の力が強くなる
恥ずかしさで体温の上がった私はきっといい湯たんぽだ

「…お前ら、今何の時間かわかってるのか?」

前方からドスの効いた声が聞こえてきた

「えーと、数学?」

「ほーぅ、わかってるじゃないか。で、お前らは何してる?」

「えーと…」

「数学なんて聞かんでもわかる。俺は寒い」

「…だそうです」

「お前ら放課後職員室に来い」

その後職員室で2人して怒られたけれど
相変わらず雅治は寒いといって私から離れなかった

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