Black×Black | ナノ

こんな彼も私も知らない


「なんでこんなことに…」

まさか…

コイツとダブルス組むことになるなんて


『こっちの台詞じゃボケ』

「つーかアンタがダブルスしてんの見たことないねんけど……できるん?」

『お前こそ見たことないわ。なめとんか』

「はいはい、バイブル様やろ。すごいすごいー」

『うっわ棒読みめっちゃ腹立つ!』


白石は1つ溜め息を吐くとラケットをくるっと放り投げた


…くそ、顔がいいって得だな


『ま、足だけ引っ張らんかったら何もせんくてええから』


『あの、先輩ら…はよサーブ打ってくれません?』

『ああ、すまんすまん』

財前くんの呆れた声が飛んできて、白石は苦笑しながらサーブを打つ体勢に入る


ーーーーーーーーーーー

…うわ、やっぱりすごい

財前くんも、忍足くんも……一応、白石も


それにしても、さっきから私は全然ボールを触ってない

いや、触らせてもらってないんだ

私が打とうとすると、すぐに白石が間に入って先に打たれてしまう
…まるで、庇われでもしてるみたいに


…なめんな


「邪魔」

『!?』

私の方に飛んできた忍足くんのボールを、力いっぱい打ち返した

小気味いい音と共に、コートの角に決まる



「…あのね、確かに女子は男子ほど強くはないけど、ダブルスで庇われるような奴が部長なんてやってない。見くびんな、アホ」


呆気にとられる白石の目を見据えて、言い放つ

『…はは、言うてくれるやん』

そう言って笑う白石と、拳を合わせる


楽しい

返せない球もあったけど、白石は笑って次な、と言ってくれる


普段こんなに間近で見ることのない、白石のプレー…


これが白石の…いや、四天宝寺のテニス――…


「白石!」

『おう!任せとけ』

まさに完璧なコースで、綺麗に決まる最後の一球


『あーあ…』

財前くんが溜め息をつく


「勝った…」

『九条!!』

白石がいきなり私の腕を握ってきた

その表情は見たこと無いくらいの笑顔で

『めっちゃ綺麗やな…お前のテニス』

「へ?」

『いや、ほんまに…楽しかった』


…驚いた

白石がこんな、こんな顔で笑うなんて

「…いや、その…いっぱいフォローしてくれて、ありがとう」


鼓動が自分でもはっきりと分かるくらいに速い

白石の顔を見ていられなくて、思わず俯いてしまう


『あ、そろそろ部活の時間やな』

「え、ああ…そうやな」


見ると校舎の方から生徒たちがバラバラと出てきていた

「私、いったん更衣室戻らんと」


いつも通り、落ち着け

速くなった鼓動を落ち着かせるように、普段通りにふるまう



『おつかれ。部活、気ぃつけや』


白石はそう言って微笑んだ

それはいつもみたいな意地悪な笑みじゃなくて…もっと


落ち着きかけた鼓動が再び爆走する

それどころか、顔まで熱い


なんだかいたたまれなくて、私は更衣室へと走り出した


「…普段はそんなこと、絶対言わへんくせに」

そんな顔で、笑わないくせに


この顔の熱さも、速い鼓動も知らない


"おつかれ"
"気ぃつけや"


…今日の白石は、何かおかしい


明日にはきっと…いつもの最低でドSな黒石に戻ってる…よね?


そう言い聞かせながら、私は火照った頬を軽く叩いた



(なんや、あの2人やっぱりええコンビやん)
(うわあああああ負けてもたあああああ!)
(謙也さん、うっさい)
(……………)
(それにしても…また面白い展開になりそうやな)


..

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