Black×Black | ナノ

そんな2人の表裏


いつも通りの穏やかな朝

時おり投げかけられる挨拶に、これまたいつも通りにっこりと微笑み返す

ああ、なんて今日も穏やかな朝…


『真白ちゃん!呼ばれてるよ!』



……今日も来やがったか


ざわめき出す教室の雰囲気に溜め息をこぼしながら、入り口の方に目を向ける

『おはよう、九条。ちょっとええ?』


にっこりと爽やかに微笑みながら私を呼ぶそいつは

白石蔵ノ介―――――


彼、いやコイツとはいろいろ、いやだいぶあるんだけど…まあそれをぐっと堪えて

「おはよう、白石くん。すぐ行くね!」

手帳と携帯を手に持ってから向かい、2人で廊下に出る

私たちが歩くと、波が寄せるみたいに人が避けていく

モーセじゃないんだから…ってもう慣れたけど


『ごめんな、朝から…ちょっと練習コートのことで相談したくて』

「ううん、気にしないで!」

『とりあえずいつものとこ行こか』


こんな周りから見たら他愛ないような会話も、人気の少ない中庭の隅…いわゆる"いつものとこ"に着くと



「…で、何の用?」


『は?やからコートの話言うたやろ。何聞いとんねんアホ』

「はあ?つーか何で朝からアンタなんかに呼び出されなあかんねん」

『俺やって好き好んでお前の顔なんか見たないしな』


…こんな感じに


男子テニス部部長、白石蔵ノ介

眉目秀麗、成績優秀

まさしく文武両道かつ爽やかで王子様的な物腰で学校一のモテ男

プレイスタイルだけでなく普段から完璧な彼についた通り名は…――“聖書“


女子テニス部部長、九条真白

頭脳明晰、才色兼備

真面目でかつ誰に対しても柔らかく、優しい学校一のマドンナ

テニス部とは思えない真っ白な肌と長い黒髪を持つ彼女についた通り名は…――“白雪姫“


…ってのは周りが見てる表の顔であって

いつのまにか"聖書"と"白雪姫"なんて大層な感じに祭り上げられちゃった手前、人前では徹底的に仮面を演じることにしている


しかもこの大変言い難い暗黒面…もとい裏の顔のことを知っているのはお互いだけ…

…ほんと勘弁してほしい
せっかく今まで猫かぶって来たのに…!こいつもだけど…!

ああもう、言ってやりたい
白石は実は口悪くて真っ黒でドSなひどい奴だと


「ほんま、あの白石がこんな……みんなびっくりするやろなー。もう黒石に改名したら?」

『お前もな。こんなんを天使!とか言うてる野郎共が居ると思ったら気の毒でしゃあないわ』


2人の時は常に言い合いが飛び交う私たち


すると突然に白石が切なげな表情を浮かべた
?なんで急にそんな顔…


『まあ俺が、素で居れるんはお前の前だけやねんけどな…』

…確かに、ね

誰も私たちの素を知らない
みんなが祭り上げるのは上辺の仮面をつけた私たちだけ


『だから俺、お前が居ってくれてほんまに…』

白石ははにかむような笑顔を浮かべた
そんな表情に何故かドキッとする

私も、


「白石、『なんてな』」


…は?

『よかったとか言うと思ったん?だっさ』

イラッ

「……っ」

くそっ…一瞬でもこのアホの切なげな顔に見入りかけた私って!
コイツが無駄に美形なのが悪い、うん、そうに違いない

『それとも…俺に見とれでもしたん?』
「するかアホ、死ね」


ごめん、四天宝寺のみんな

残念ながら私はこの男のどこがいいやら全く分かりません



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