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つくばねの


イライラする

「景吾くん帰ろー」

馬鹿みたいに笑って俺に駆け寄ってくるその笑顔に

「景吾くん?」

イライラする

「あぁ」

俺がそう答えるとまた嬉しそうに笑うコイツは古西那美
1週間前に紹介され、氷帝に転校してきた俺の婚約者だ
婚約者と言っても親同士が勝手に決めたもので俺自身は納得なんてしてねぇ
今まで話したこともねぇ奴と結婚だなんて受け入れられるわけがねぇ

それに対して那美はあっさりとそれを受け入れ、しかも俺を好きだと言う
どうせお前も俺の顔とか金とかそういうところが好きなんだろ?

「景吾くん?」

「…黙れメス猫」

黙っていた俺を不思議そうに覗き込んでくる那美にまたイライラして
ついにそのイライラは爆発した

「え…?」

「婚約者だかなんだか知らねーが俺にベタベタしてくんじゃねーよ。会ったばっかのくせに俺が好きだなんだって…俺のどこが好きなんだよ!?顔か!?金か!?」

図星だろ

「違うよ」

何…?

「景吾くんが氷帝のトップとして影で頑張ってるのだって私は知ってるし、テニスだってみんなが見てる以上の努力をしてることも知ってるし、他にもたくさん知ってるよ。会ったばっかりって言うけど見れば見るほどいいところが見つかる景吾くんを好きになるのに一週間なんて短すぎるくらいだよ」

まっすぐな目で俺を見つめて那美は言う

「それじゃあ駄目なの?」

「…チッ」

その目を合わせてられなくて俺は思わず那美がら目をそらす
そして那美を一度も見ることなく家に帰った

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昨日からずっとイライラする
今日も那美は俺と帰るために部室に来て今は忍足と談笑中
忍足にあの無邪気な笑顔を浮かべている
その笑顔が視界に入る度にイライラが増す

―何故?

俺はあいつのことなんて何とも思っちゃいねぇはずだ
なのにこんなにもイライラするのは…

「…チッ、そういうことかよ」

俺は楽しそうに話す二人のもとへ行く
那美は相変わらず無邪気に笑ってやがる
その笑顔を隠すように俺は那美を抱き寄せた

「け、景吾くん?」

「どないしてん、跡部」

「…じゃねーよ」

「は?」

「コイツの笑顔は俺様のモンだ。鼻の下デレデレ伸ばして見てんじゃねぇよ」

「見てへんわ!!だいたい…」

忍足がごちゃごちゃ言ってるが関係ねぇ
俺の目には不思議そうな顔をする那美しか映っていない

「笑えよ、那美。俺様はどうやらお前の笑顔に惚れたらしい」

俺の言葉に那美は今まで見たことがないくらいの笑顔を浮かべた

その笑顔は俺様だけに―…


筑波嶺の 峰より落つる 皆の川  恋ぞ積もりて 淵となりぬる

(気がついたら…君への想いは溢れるばかりで)




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