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ゆらのとを

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俺の隣の席の女子、古西那美

いつも独りで、誰かと喋ってるところなんてほとんど見たことがない
まして笑顔なんて全然


(まあ、別にいじめられてる訳じゃなさそうやけど…)


色素の薄い髪はサラサラと長くて、気だるさを帯びた瞳はいつも窓の外を向いている

あまり女子に興味のない俺からしても"美人"の部類に入るはずやのに、男っ気も全くない


『…なに?』

思わずじっと見つめてもてたみたいで、古西が首をかしげる

「別に…すまん、ぼんやりしとった」

俺の目を捉えて微動だにしない瞳がめっちゃ綺麗で、柄にもなく動揺してまいそうになった

『そう』

また窓の外へ視線を戻す彼女

コイツを見てるとたまに、自分が自分じゃなくなるみたいな感覚がする


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“昼休み、屋上で待ってます“

見慣れた、ありきたりな文句が書かれた手紙

『あの…ずっと前から好きでした!』

「すまん、俺そういうん興味ないねん」

いつも通りの答えを返すと、目の前の女子は見開いた目に涙を浮かべた

別に女子が嫌いなわけちゃうけど、媚びるような仕草も香水の香りも、俺にとっては…興味がない


走り去るそいつの姿を眺めてると、ふと隣の席の彼女の姿が頭に浮かんだ

他の女子とは全く違った雰囲気

古西の周りはいつも空気が違ってて、静かで、心地よかった


「…何考えてるんやろ」

あいつのことが頭から離れんまま、俺は教室へと戻った

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俺が席に着くと、古西は視線を俺の方にむけた


『また呼び出し?大変だね』

話しかけられるなんて初めてで、思わず心臓がはねる

「あー…でも俺、恋愛とか興味ないねん」


『へえ、一緒だ』

「……!」

初めてみた、古西の優しい笑顔

あまりに突然で、不意打ちで

自分の鼓動が今までにないくらい速くなったんが分かった


ああ、もう

"興味ない"

今までずっとそう思ってたのに、それが一瞬で覆されるなんて


この距離を埋めるんは簡単なことちゃうやろうけど…てか俺にとってはもはや初めてのことやし


それでも

その気持ちはあっという間に加速して、もう止められそうになかった



由良のとを わたる舟人 かぢを絶え  行方もしらぬ 恋の道かな

(この届かぬ想いは、一体どこへ向かうのか)




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