赤色ハニー | ナノ

優しい顔


side 仁王

なんだか授業を受ける気がせんくてサボろうと向かった先は屋上
途中で出会った女もついてきてさっきから隣でベタベタとすり寄ってくる

「ねぇねぇ雅治ぅ、ちゅーして?」

「ん」

甘ったるい猫なで声で俺にキスを求めてくる名前も知らん女に俺はまるで作業のように唇を落とす

「んふふー雅治好きぃ」

「そーか」

よく言う
この女に彼氏がおることを俺は知ってる
確かサッカー部の奴じゃったと思う
口だけのその場だけの愛の言葉

キーンコーンカーンコーン

授業の終わりを告げるチャイムが鳴る
次の授業は音楽じゃったか…めんどくさい
このままサボってしまおう

「あ、次数学だから行かなきゃ。さやか教室戻るけど雅治はどうするぅ?」

さやかっていうんかコイツ

「俺はこのままおるぜよ」

「そっかぁ、じゃあね!!」

極端に短いスカートをなびかせながら屋上を出ていく
屋上はしん、と静まり返る
いや、下から次は体育の奴らの声が聞こえてきとる
ギャーギャーとこの暑い中ご苦労なことじゃの
ちら、と見れば体操服に身を包んだ生徒の中から一人確実に目立つ赤色
緋奈か
緋奈は誰かと話すわけでもなくポツンとそこに立っとった
友達はおらんのじゃろうか

キーンコーンカーンコーン

今度は授業開始のチャイムの音
それと一緒に屋上のドアの開く音がした

「あれ、雅治?」

「亜沙美か」

ドアのところに立っとったんは倉本亜沙美という同学年のやつ

「またサボりー?」

「お前さんもじゃろ」

「あたしは自習ですー」

けらけらと笑いながらこっちに来た

「うわ、香水臭い」

「あー」

さっきの女のが移ったんか

「また?」

「…」

沈黙もまた肯定なり、とはよく言ったもので何も言わん俺の返信を亜沙美は察したようで
悲しそうな顔でため息をつく
俺は亜沙美のそんな顔を見るたびに申し訳ない思いになる
多分、亜沙美もそう思っとるんじゃろう
お互いわかっとる
けどお互い何も言わん
それが今の俺達の関係

「体育…何年生かな」

「1年」

「よくわかるね」

「よう目立つ奴を知っとってな」

「どの子?」

「あの赤髪の。丸井の妹じゃよ」

また下のグラウンドへ目線を移す
相変わらず一人のままの緋奈がおった
今は準備体操ということでグラウンドを走っているらしい
緋奈は後ろの方で走っとる
…差空きすぎじゃろ
運動は苦手なんじゃな

「…」

「何じゃ?」

「いや、雅治何か優しい顔してるなって」

「は?気のせいじゃろ」

「そうかなー。それにしてもあれが丸井くんの妹ねぇ。髪の色一緒じゃん」

「丸井に染められたんじゃと」

「何それ。んじゃあたしは行こうかな」

また屋上のドアの方へと向かおうとする

「何で」

「雅治香水臭いんだもん。あたしは別の場所でサボるよ」

「結局サボりか」

「うわ、バレた」

いたずらっぽく笑うと亜沙美はドアに手をかける

「気のせいなんかじゃないよ」

「は?」

去り際に亜沙美が何を言ったのか俺は聞き取れんかった



 


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