眼が眩むほどに



「ハタチ以前のおまえって、どんなだった?」



「…ええと、」

困ったように笑って、俺の問いかけを上手くごまかそうとする。すくめてみせた、シーツからはみ出た肩の、日に焼けていない白いそれに赤い花がぽつりとうかんでいた。

「すっごく、つまんないですよ」

掠れた声も、汗ばんで額に張り付いた髪も、その真っ黒い目も、ぜんぶいとおしくて、少しも離れたくないと、身体をさらに寄せ合った。おんなじシャンプー使ってるけど、やっぱり椿からは椿のにおいがするんだね。

「ほんとにふつう、でしたから、あの、聞いたってなんにも」
「とくべつ、が聞きたいって言ってないよ、俺は。なんでもいい」

椿は更に困ったように首をかしげた。何を躊躇してるのか、いや、なにを迷っているのか分からないけど、俺はね、椿のこと、もっと知りたいなぁって思うわけ。たとえばほら、高校生の時に好きだった歌、とかね。その時俺はイングランドにいたから、あんましこっちのこと分かんなくて、上手く分かってあげらんないかもしれないけど、知りたいと思うんだよ。その時の椿がどんなふうに過ごしていたとか。

「思い出せるような思い出が特になくて、だからあの、達海さんが質問してください。それならなんとか」


音楽だったらスピッツとか聴いてましたよ。

ものすごくはずれた答えが返ってきて、まあ、らしいけどね、とか、思っちゃった訳だけど、訊きたいことなんて山ほどあるし、今日はオフだし、ずっとこうしていようか。あとね、スピッツは俺も知ってるよ、すきだから。

そう思ったけど、朝日が眩しいし、目が開かない。それは椿も一緒みたい。
だめだ、あったかくて、いまにも夢に引きずられてしまいそう。まだ椿寝るなよといいかけた目先に椿の寝顔。せっかくだから子守り歌に一曲、リクエストを歌おうとした俺の意識も、結局椿の後を追って行ってしまった。
いまなら、すごくいい夢を見られそう。理由なんて、わからないけどね。
抱きしめた椿の身体が、やけに小さくて、でもそれが、夢なのか現実なのか、もしくはきのせいなのか、今の頭じゃちっともうまく考えてくれやしない。ただ、椿のぬくもりを傍に強く感じて、ぎゅっと抱きしめた。しあわせで、仕方なかった。





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