スノードームの底にて


いつだったか達海さんが、珍しくフットボールの試合のDVDじゃなくて洋画のDVDをみていたことがある。後藤さんが気を利かせて、仕事詰めの達海さんに息抜きがてらに、と渡したのだそう。
達海さんイコール監督イコールフットボールっていうイメージばかり抱いていた俺にとってすごくそれが新鮮で、不思議だった。思わず少しだけ、笑ってしまった。勿論、わるい意味なんかじゃない。むしろ、なんだか嬉しかった。

オレも、と一緒になってみていたけど、字幕のないそれは俺にはさっぱりで、なんとなく恋愛モノなんだなって分かっただけ。気がつけば恋人らしい人が入院していて、気がついたらその人は亡くなっていた。主人公はその後直ぐに、死んでしまう。自分のこめかみに銃を向けて、それから、すぐ。拍子抜けの展開。ラストは全く記憶にない。よくわからないうちに、終わってしまっていた。
達海さんはそれなりに楽しんでいたみたい。俺は少し居眠りしてしまってて、終わったとき達海さんは笑って起こしてくれた。
よかったですか?と訊けば、達海さんはうんと頷いて、それがなんだかすごく寂しいなって思った。英語を喋る達海さんを想像できない。
ひそうれんあい、達海さんはそう呟いた。愛ってなかなかうまく伝わらないんだねぇ、と。聞けば亡くなった恋人は生前「私の分まで生きて」って言っていたそう。



「椿、みてほら」

こんなタイミングで、悲壮恋愛と達海さんが呟いていたのを思い出していた。オレにとって恋愛のノウハウは初心も初心。うまいぐあいに表現するすべも知識も持ち合わせてはなかった。

「雪だるま、つくってみたんだけど」

椿みたいじゃない?
映画のはなしを思い出すのはいつも決まっておなじとき。俺が試合でポカしたあと。いやなタイミングだなあ。でも、その試合後勝手にグランド忍び込むたび、達海さんが必ず俺に気がついてくれるから不思議だ。達海さんって、ちょうのうりょくでもつかえるんですか。

「なんで三つなんですか?」
「しらないの、イングランドはこっちが主流なんだよ」

ねえ椿、あの映画さ、バッドエンドか、ハッピーエンドか、どっちだと思った?
あとで有里に訊いたらさ、アレ、ハッピーエンドなんだって。不思議だよね、俺はバッドエンドだと思って観てたんだ。先に死んじゃった恋人には、また天国で逢えたのかな。今度こそずっと一緒だよ、なんて約束したりしてさ。そうだとしたら、たぶんしあわせなんだろうねえ。愛情表現ってひとつじゃないんだってさ。椿はどう思った?
達海さんは納得したように言った。
やっぱりオレにはわからなかったけど、オレもそう思うっス、と返事した。達海さんは、にんまりわらった。あ、バレてる。

「椿は二段派ってところ」
「二段しかしりません」

いちばん下にいた一番大きい雪玉を、達海さんは俺にくれた。オレはそれに不格好な雪玉を乗せる。うまくはできなかったけど、そこにはふたつの雪だるまが寄り添ったりなんかしてる風景があらわれた。白い芝生のすぐとなりだから、誰かに踏まれないかな、とすこしだけ心配になった。

「やっぱりなんか日本人ぽくていいね」

素朴で、
達海さんはそう言って、つめたくてひんやりした手を、自分のジャケットのポケットにしまった。いつまでこんなに薄着なんだろう。風邪引かないのかな。
そう思って、ああ暖めてあげないとと思った右手が動かない。達海さんは、黙ってオレの手を取って、自分のポケットに入れた。がんばって指を絡めてみる。達海さんは、にひー、と笑った。

「監督、雪だるまみたいな俺って、どんなですか」
「んー、椿みたいな雪だるま、だよ。」
「…つめたかったり、丸かったりしますか」
「ちがうなァ」

察するに、まるで、わかってないよ、とあんもくに言われたらしくて落ちこんだ。達海さんは、いますごくにてる、と言う。
雪だるまはよくみると、黒くて豆粒みたいな石が二つ、顔あたりにくっついていた。

「椿がこれににてるんじゃなくてね、雪だるまを椿に似せようとしたんだよ」
「俺は、こんな顔してたんですか」
「今日だけだよ、」

黒目は少し悲しそうにしてる。じゃあとなりは達海さんですか。もっと上手につくればよかったなぁ。

「ツバキー、」

とつぜん、ぶかっこうな達海さんだるまが、椿だるまに顔を向けた。ツバキゲンキダシテー。達海さんだるまがげきをとばす。たちまちにこりと顔を上げる椿だるま。つないだ手がひどくあつい。ふと隣をみると、達海さんは耳を真っ赤にして顔をそむけた。あ、かわいいな。


「…ズット、ナグサメテクレテタンデスカ?」
「ハテ、ナンノコトカ」



優しい恋人の、わかりにくい表現方法






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