かみさまほかく





どうしてこうも伝わらない


可愛くて可愛くて仕方がない。
走る姿、ボールを蹴る仕草、頑張ってる姿、その全てがああ好きだなと思った。きっと彼のいちばんはサッカーなんだろう。そして、俺のいちばんも、サッカー。そこはおそろいなんだ、やった。
彼の『いちばん』を、彼はどんなに愛しているんだろう。彼のいちばんになりたいと思った。彼は『いちばん』をどんなに愛してくれるんだろう。


「…持田さん持田さん。お米か、パンくずありますか」
「…椿くんおなか減ったの」
「この子、ご飯欲しいんですって」

ベランダの縁に白い鳩が一羽。目を輝かせながら話す椿くん。あ、天使みたいだ。

俺のマンションにおいで。
電話で椿くんを呼び出した。何でもないふりをして、そう、いつもの『格好いい持田さん』に努めて。携帯の向こうの声に内心では心臓が壊れるくらいにどきどきした。

『わぁほんとですか!行きます!』

椿くんが嬉しそうに返事をしたりなんかするから、少しの罪悪感。ねえ椿くん、恋人なんだからさ、下心があることも分かってね。

20分後位だろうか。椿くんが電話を切って、うちにやって来たのは。
広いですねぇとか、一人暮らしすごいですとか、まるで友人宅におよばれされた大学生みたいなことを言う。

『友人』

あ、自分で言って傷付いた。
ほんとにそう、無防備、というよりは無関心というような。恋人という関係に対して。緊張感もムードも有ったもんじゃない。

まさかなんとも思われて無いんだろうか。嫌だな。さすがに傷つくよ、俺でもね。
恋愛ってこんなに難しかったっけ。何かもっと…もっと、違ったような気がしたんだけどな。恋愛のバイブルは同僚のノロケ話。つまり恋愛のノウハウは分からない、って訳だけど、お相手が『椿くん』じゃあ、次元が違うのかな。比べるわけにもいかない。
でも、ちゃんと好きだよって伝えて、返事ももらって、段取りを済ませたんだ。少しくらい意識したって良いんじゃないかな。

俺よりもベランダの鳩に夢中な恋人(仮)。ねえ椿くん、鳩って浅草の方がいっぱいいると思うんだけどな、俺。

「その鳩が言ったの」
「いえ、聞こえた気がしました」

椿くんのそういうとこ、俺にはわからないんだけど。なに、天然っていうやつ?不思議ちゃん?どこからそんな発想がわいてくるのとかは、永遠のなぞ。さすがは椿くん。鳥とも会話できちゃうんだ。

「あ、でもこの子、勝利の神様かもしれませんよ」
「…ヤタガラスのこといってんの」
「三本脚じゃないですけど、ホラ、白いですし、目が赤くてくりくりしてます」
「どっちかって言うと、平和の象徴じゃん」

仕方なしに食パンを椿くんにあげた。鳩以上に喜んでる。かわいい。可愛い、けど。

「餌付けしないでね」
「可愛いじゃないですか。また来てもらいたいっす」
「仲良くなったら捕まえて食うよ、俺」
「なんでそんなこと言うんですか…」
「言わないと分かんないの、」

疑うような眼差しは、やがて何かの真理にたどり着いたようにきらきらと輝く。いぬみたいだ。真っ黒で大きな目をした、こころ優しい大型犬。そういや、どっかの王子様が愛犬呼ばわりしてたっけ。
むかつく。椿くんは王様の恋人なのに。

「…あ、もしかして持田さん、ヤキモチ焼いてるんですか?」

その真理があまりにも直球だったから、内心どきりとした。まさか一発でど真ん中を突いてくるなんて思わないじゃん。天然ちゃんだなんてただの思わせ振りなの。もしかして相当な策略家だったりする?

「……そーだけど、悪い?」
「あ…すいません、あの、オレばっかり餌あげちゃって、持田さんもどーぞ」
「……なに言ってんの」
「きっとこの子も、持田さんと仲良くなりたいって思ってますよ」

前言撤回。ああもう鈍感!そうじゃないだろ気付け天然!ひとりふて腐れる自分が哀しくなる。はいはい憐れあわれ。そんなきみも可愛い、だなんて俺もどうかしてる。俺、一生椿くんには勝てない気がするんだけど。

「…椿くんって、すごく惜しい子だね」
「え?」
「決めた。今日は先に椿くんから食うことにするから」
「あ、それなら持田さん、近くのベーカリー行きましょうよ」
「…ねぇそれわざとなの」



ひとの気も知らないで!









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